授業の後、大家さんとその娘が衛星放送受信機の件でやって来る。
電気屋さんのような男がやってきて、大家さんのファトマと延々値段の交渉をしています。「このアンテナでヨーロッパの放送は見られるのか」「ダメだ、別の大きなのをつけないといけない」とか「それは高い」「後で払うから待て」「できない」「この辺でわたしを知らない人はいない、ちょっと支払いを待てないのか」とか、そんなお話です。半分くらいしか聞き取れていませんが、要旨はわかりました。
最終的に値段が妥結すると、ファトマがわたしを別室に招いて、「100ポンド払えないか」と言ってきます。わたしは衛星テレビなんてあってもなくてもいいし、増してアラブ以外のテレビを見る気は全然ないので「ヨーロッパの放送も日本の放送もいらない。それがなければお金を払わないでいいのか」と確認すると「いらないなら別にお金はかからない」とのこと。
もっと早くにツッコんでいれば余計な交渉をさせないで済んだかもしれませんが、どの道スッキリは行ってなかったらだろうし、実際「アラブの放送だけで構わない」と言っても部品が足りないとかで工事が延びたので、良しとしておきます。
エジプト人はテレビを非常に良く見ます。日本のように娯楽が多様化していないし、女性は家に篭る時間が長いので、テレビのポジションが日本よりずっと重いです。
結婚する時は必ず豪勢なテレビを用意しなければならないし、衛星放送もほとんど必須、とのことです。M先生も奥さんについて「テレビばかり見ていてちっとも家事をしない。時間を持て余しているならもうちょっと役に立つことをして欲しいけれど、読書にもコンピュータにも興味がないようだ」とボヤいていました。
そんな背景があるので、頼んでもいない衛星放送を導入してくれる、という話になったのかもしれません。どのみちエジプトのテレビしか見ないし、地上波だけなら今でも映るので(アンテナがボロい室内アンテナだけなので、画面はほぼ白黒だが音声は聞き取れる)、何もしてくれないで良かったのですが。
ファトマはわたしと話す時は無理にフスハーや英語を使おうとするので、かえって聞き取りにくいです。世間話で出てくる話題も「その髪はどこで染めたの」「なんてブランド? 美容院でやったの? 自分でやったの?」とか「脱毛はどうやってするの?」とかばかりです。エジプトの女性とお話しても、この手のネタとか「食べ物は何が好き?」「どう料理するの?」とか、そんな話題で、ちっとも話が噛み合いません。
そういう普通の話題にまったく興味がないわけではないのですが、ぶっちゃけどうでもいいし、普通の女子トークができなくて脱落して流れ着いたような人生なのに、エジプトくんだりまで来て脱毛のことなんか話したくありません。
その点、娘のタスニーム(十二歳)は知的好奇心旺盛で、非常にノリが合います。精神年齢的に近いということでしょうか。彼女の方がいくらか大人な気もしますが・・。
礼儀正しいし、フスハーも上手だし、ちょっと日本語を教えるとすぐ覚えるし、とにかく色んなことに興味を持って、何でもノートに書きとめようとするのがとても素敵です。二人で話していると彼女は日本語の勉強、わたしはアーンミーヤの勉強になるので、お互いにとってプラスです。「いつでも好きな時に遊びに来て。一緒に勉強しよう」と言っておきました。
NHK Arabicのカリーマ先生による日本語講座のページを見せたら、合気道の話題が出てきて「友達が合気道やってる!」とか目をキラキラさせています。残念ながら合気道はできませんが、わたしの武道キャリアが活かせる場がやっとやって来たかもしれません(笑)。
日本から日本語関係の書籍やお土産をもっと持ってくればよかった、と悔やまれます。英語による日本語教材ならカイロでも手に入ると思うので、彼女にプレゼントしたいです。カイロの日本語学校などでは、どんな教材を使っているのでしょうか。
とにかく、彼女はエジプトで出会った全女性の中で一番好きです。十二歳、最高です。変に色気付かないで、「なぜ? なぜ? どうして?」のまま突っ切って欲しいです。あんまり突っ切るとわたしみたいになるので、普通のことも大事ですが・・・。
昨日遊んだ五歳のムハンマドくんといい、遊んで楽しいのは子供ばかりです。大人ってつまんないなー。
授業中にDさんから電話がかかってきて「今授業中、あとでかけなおす」と言ったまま放置していたら、夜中にまた電話が鳴りました。
シャルム・イッシェーフにいるそうで、「バスで遊びに来い」と言い出します。「何でも高いし、そんなとこ行きたくない」と言っても「安いところもある。全然問題ない」と誘ってきます(シャルム・イッシェーフはシナイ半島の地政学的要所で、元々はイスラエルが作ったビーチリゾート)。
「カイロに篭って勉強ばかりしてないで、せっかくの機会なんだから色々旅行した方がいい」とか言われているうちに、本当にちょっと行ってみたくなりました。一泊貧乏旅行するだけなら、遊びに行っても良いかもしれません。最近は結構遊んでいるので、あんまり「勉強ばかり」の暮らしではないのですが・・。
ヨーロッパ並みの物価というし、ダイビングなんか絶対したくないし、「夜パーティーに出るならドレスが必要」とか聞いているだけで鬱になる情報ばかり耳に入ってくるので気が向かないのですが、逆にキッカケがなかったら一生縁がなさそうだし、チャンスかもしれません。
ビーチリゾートかぁ。ヨーロッパ人騙して巻き上げられないかなぁ。

通りのイフタールを俯瞰 posted by (C)ほじょこ
衛星放送が映りかけて頓挫、ビバ子供
エジプト留学日記