イフタールには出歩くな

 ラマダーン・カリーム!
 というわけで、ラマダーン入りしました。
 何が起こるのかなーと思っていたら、特に何も起こりません。ただ、朝は心なしかいつもより街が静かに感じました。
 前にタバコをあげた掃除のおばちゃん(厚かましいのでちょっと苦手)に会ったので、「一本いる?」と差し出したら、「いや、サウム(断食)しているから」と断ります。ところが、一本の代わりに「箱ごとくれ」と言い出します。「箱ごとはダメだ。一本ならあげる」と言うと、また「断食してるから」と断ります。
 一本でも取っておいて後で吸えると思うのですが、どういうことなのでしょう。というか、箱ごとくれって一体・・・。
 久しぶりにダーリンとSkypeがつながる。というか、まだ三回目のような気がする。ダーリンの髪の毛が伸びてもっさりしていて面白かった。機嫌が良さそうで、とても幸せな気持ちになった。って、わたしがいないから機嫌いいのかしら・・。
 ダーリンとのSkypeを切ったところで、父親のアカウントがログインしているのに気づく。試しにかけてみたら、音声だけつながる。初親子Skypeに成功。母とはこの間メールでちょっと喧嘩っぽくなっちゃったのですが、お話したら仲良くできました。
 丁度お休みの日だったので、出かけようか、喉が渇いたらしんどいしやめておこうか(一応わたしも断食しています)、迷ったのですが、気まぐれでまたメトロ小旅行に。
 でも途中で暑さで気持ち悪くなってきて、結局すぐに戻ってきてしまいました。
 何度も書いていますが、日陰でじっとしていればかなり涼しいし、夜は東京よりすごしやすいのですが、直射日光の「痛さ」が半端ないです。
 日本で雨が降っている時に「走って突っ切るのとゆっくり行くのとどっちが濡れないだろう」と考えることがありますが、日中に歩いていて日陰のない距離が長いところは、日陰で体力を貯めて「えいっ」と突っ切っています。
 逆に言うと、どんなに暑くても日陰でダラダラしていればどうということはないし、待っていればそのうち涼しくなります。この「何もしないのが最大の解決策」というムードが、この国のあらゆる面に浸透している気がします・・。
 飲食店は閉まっているところが多いし、屋台もほとんど出ていません。でも、まったくゼロなのかというと、そうでもなく、多少は営業しているところもあります。
 ジュース屋さんなどは、コップで出す代わりにビニール袋やペットボトルに飲み物を入れて売っています。
 宿に戻って喉の渇きに耐えながら勉強し、日没を待ちます。そして遂に、「解禁」の時が!(昨日サマータイムが終わって、大体夕方6時半くらいがマグリブ)
 街がどんな様子になっているのか知りたくて、エサあさりを兼ねて外出します。
 さっきまで騒がしかった街が、お正月の東京のようにガラーンとしています。歩いている人もほとんどいません。普段の喧騒が東京の三十倍くらいなので、静けさが実に不気味です。
 近くの広場方面に歩いていると、三人の若いエジプト人が絡んできます。よくあることなのですが、妙にしつこくてワルそうな人たちだったので、少し怖かったです。
 そのまま歩いていると、今度は車の中から話しかけてくる男がいます。三人を振り切るのに丁度良いかな、と思い近づいてみると、「お願いがあるんだけど」とか言っています。
 ぶっちゃけ「お金払うから性的サービスしてくれ」な人でした。特別な日だと思ってウキウキでかけたら、ワルガキに絡まれるわ、変態につかまるわ、最悪の展開です。
 お腹も減っていて不機嫌レベルも最高に達し、どなり散らしただけで車を凹まさなかっただけ、大人になったと自分を褒めてあげたいです。
 他にも、この変態野郎ほど露骨ではないものの、明らかにソレ目的で寄って来る男が何人かいて、ムカムカするので、結局欲しくもないケンタッキーだけ買って宿に帰りました。わたしの初イフタールは水とケンタッキーでした・・・。
 イフタール後にボスのS先生と約束があり、久しぶりに一緒にブラブラ歩いて、前に一度だけ入ったお高い西洋風のカフェに入る。アイスエスプレッソを飲む。
 エジプトはコーヒーの本場ですが、こういう洋風の「アイスコーヒー」は、逆にあまり見かけません。特に、甘くないものを見つけるのは大変です。
 その時、イフタール時に出会った散々な事件について愚痴ってしまったところ、重要な教えを授かりました。
 「イフタールの時は、ほとんどのムスリムは家で家族と一緒にいるか、そうでなければ仕事をしている。通りを歩いている人は、家路を急いでいるはずだ。それ以外でブラブラしている人がいるとすれば、それは必ず悪い人間だ」「普段だったら、悪いことをしようとしても、周りに人がいて必ず止めるだろう。悪い人もそれがわかっているから、そうそう悪さをできないはずだ。イフタールの時にわざわざ通りに出てくるような人間は、人目のないことを利用しようとしている悪人に決まっている」。
 なるほど、と納得しました。
 イフタール後の街はお祭りムードで、素晴らしい世界に一変するのですが、イフタール時だけは外に出るべるべきではないようです。先生からも「イフタールが終わるまでは部屋でじっとしていろ」と言われました。
 今日の教えは「イフタールには出歩くな」です。
 ちなみに、日没直前もみんなお腹が減ったり喉が渇いたりしてイライラしていて、ただでさえしょっちゅうキレてるエジプト人のブチキレ閾値が更に低くなっているので、怒らせないように要注意です・・・。
追記:
 「人がいれば、悪さをしようとしても必ず周りが止める」というのは、本当です。日本なら絶対「見てみぬふり」になる状況でも、エジプト人は必ず介入します。何の権限もなければ当事者とまったく無関係な人が、場を取り仕切って「お前が悪い、ここは謝っとけ」みたいにまとめている風景がよくあります。
 人懐こすぎて鬱陶しいこともあるエジプト人ですが、こういう「非システム的な秩序維持」については、ものすごいパワーを発揮します。
 システム的なものについては、もうちょっと整備したほうが良いと思いますが・・・。
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肉と猫 posted by (C)ほじょこ

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