オールドカイロ

 朝食後、いつものようにマタァムで勉強していると、チーフ的ポジションのアシュラフが息子のアフマドくんを連れてきていました。今度小学校五年生とのこと。「この日本人はアラビア語が話せるんだよ」と紹介されましたが、相変わらずアーンミーヤはさっぱりです(フスハーなら任せろという意味ではない)。
 なぜか子供と二人きりで残されてしまったので、間が持たなくなって一緒に教科書を読む。教科書のレベル的には、丁度彼とわたしで良い勝負なんじゃないかと思いますが(笑)、たどたどしくフスハーを読みながら解説してくれる彼のアーンミーヤが、さっぱりわかりません。彼にとっては「難しい言葉を易しく説明」しているのでしょうが、わたしから見ると逆です。
 結構タシュキールを間違えて読んでいたりして、アラブ人にとってもフスハーは簡単じゃないんだなぁ、と改めて確認させられます。面白いのは、受動態の部分をほぼ確実に間違えて読んでいたことです。エジプト方言には、フスハーのように母音の変化だけで受動態を作る文法がないので、関係あるのかもしれません。わたしが指摘しても、受け入れてくれませんでした(笑)。
 その後、一緒にネットブックを触って遊んだりして、まったく宿題ができないので、部屋に撤退。
 宿題をしていると、先生から電話がかかってきて「今日急な集まりがあることになって、授業ができない」と、突然のお休みを宣告されました。これくらいでイライラしていると身が持たないし、こっちもこの時点で宿題が終わっていなかった弱みがあるので、「はーい」と受け流して、とりあえず勉強を続ける。
 暑くて外に出る気になれないのですが、このまま一日部屋にいるのもバカみたいなので、オールドカイロ観光に出かけることにしました。滞在地からそんなに遠くないので、気合で炎天下を歩いていくことにしました。
 ちなみに、この「強行歩行観光」、少なくとも夏場は普通に観光で来られた方にはお勧めしません。地図で見ると近く見えても、横断が大変だったり人込みがひどかったりで、スムーズに進めることがほとんどないからです。
 炎天下を歩くのは想像以上に体力を消耗する上、外国人の多いスポット的地域を除くと、道もボコボコでゴミと埃まみれで、バクシーシをねだる子供がまとわりついてくるわ、シーニー兄ちゃんに冷かされたるわ、変なナンパが寄ってくるわ、とにかく目的地まで到達するのが一苦労です。
 タクシーでポイントだけ回っていれば、良し悪しは別として、こういう面倒はすべてスキップできます。
 ギザ(ナイルの西側)とローダ島(ナイルの中洲)にかかる橋は、夜は屋台と涼を求める人たちで歩くのも大変なのですが、昼間はほとんど歩行者がいません。その代わり、道が渋滞していたりすると(大体渋滞している)、余裕でバイクが歩道を走ってきます。
 しかも、東洋人の女が一人歩きしたりしていると、冷やかしにわざとギリギリ脇を通り抜けようとするので、危険極まりありません。タイミングを見てラリアートでも出せば軽く殺せそうですが、腕が折れたらイヤなのでやめておきました。
 橋の歩道はところどころ穴が開いていて、ナイルの流れが覗けます。人がスッポリ入るほどの穴ではありませんが、結構怖いです。
 ローダ島のローダ通りより南側は、団地っぽい感じで中産階級の住宅地、という印象です。あまり自信がないですが、とりあえず市内に数多いスラムのような地区ではなく、かといって外人ばかり住んでいる超高級エリアでもない、くらいの感触で、割と散歩しやすそうなので今度攻めてみます。
 オールドカイロの見物は、ガーマ・アムルと聖ジョージ修道院(ギリシア正教会)、そして地下道を抜けて東側に広がる、迷路のような古い町並み。
 コプト地区に入る入り口のところで金属探知機を備えたゲートがあり、地域全体が警護対象になっているようです。「教会は入れない」と言うので「ブラブラ歩くだけ、外から見るだけだ」と言うと「お前はアラビア語ができるのか」と聞いてきます。「ちょっとできるよ、勉強している」と言うと、「君はちゃんとしたフスハーを喋るね、わたしのフスハーは赤ちゃんレベルだ」と笑っています。いや、そのあなたたちの方言の方が、ずっと難しいのですが・・。
 欧米人の観光客が多い一帯ですが、アラビア語を話す東洋人が珍しいのか、そこら中のおっちゃんが寄ってきて、ゲート通過に異様に手間取ってしまいました。
 ゲート内の町並みは、どことなくスペインっぽいです。
 オールドカイロで撮った写真を貼り付けてみます。
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DSCN4560 posted by (C)ほじょこ
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DSCN4587 posted by (C)ほじょこ
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 グルっと回ったところで、ゲート内にある外人相手のカフェでレモネードを飲みました(もちろん観光地価格ですが、代わりに孤独と静けさを買える)。
 「冷たい飲み物で砂糖の入っていないものはあるか」と聞くと「コカコーラゼロかレモネードだ」というので、「じゃあレモネードで」と答えると、「すごいすっぱいよ」と言います。「わかってる、砂糖なしでいい」と言うと、やっと納得してすっぱいジュースを出してくれました。
 確かにすっぱいので、ちょっとだけお砂糖を入れると丁度良いのですが、何度か「ちょっとだけ」と言ったら、「どこがちょっとやねん!」という甘さにされてしまったので、諦めてすっぱいジュースを飲んでいます。すっぱくても、あの異様な甘さよりはずっと美味しいです。
 子猫と遊んでいるヨーロッパ人らしい男性に、店員が「アラビア語でhow are youはイザーヤック、goodはクワイスだ」と教えていて、「それはエジプト方言や!」と心の中でツッコミました。
 ゲート脇にある骨董品屋で、古いオリンパス・ペンを見つける。
 写真好きのダーリンに買っていこうか、と考えていると「これはまだ動くんだ」と店主が操作して見せてくれます。エジプトまで来てカメラを買って帰るのもアレなので、やめておきました。ダーリン、もし欲しかったらメール下さい。
 この地区の周囲も貧しい地域で、外国人が歩くと「マネーマネー」と子供がまとわりついて、難儀します(普通の観光客は歩いて突っ切ったりしない)。
 ほとんどの場合、観光スポットだけはキレイにされていて、周りを外人相手の商売とツーリストポリスが取り囲んでいる、というのがお決まりの風景です。
 カイロ市内は、異様に警察官が多いです。しかも、前にも書きましたが、普通の警官が自動小銃で武装しています。拳銃だけなのは将校(ダービトゥ)クラスより上、と聞きましたが、こういう区分けも軍隊っぽいし、彼らが警官なのか軍人なのか、両者の区別が曖昧なのか、よくわかりません。
 自動小銃で武装した警官があれほど必要なほど治安が悪いとは思えないですし、その小銃を杖に居眠りしている警官もよく見かけるので、雇用対策の方がメインなのかもしれません。小銃と言っても古いAKばかりなので、もしかすると軍隊のお下がり小銃でも持たせておく方が、シャレた拳銃より安上がりなのかもしれません。

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