エジプト方言の傾向

 アラビア語のエジプト方言では、独特の頻出表現や語彙があったり、構文がフスハーとは異なる部分がある他、フスハーにある語彙でも、概ね以下のような法則で子音が置換されている傾向があります(右がフスハー、左がアーンミーヤ)。
ث ت
ق أ
ض د
ذ ز
ة ه
ء ي
 この置換は絶対ではなく、大体の傾向です。このうちضがدになったりذがزになるのは、日本人にとっては大差ない、というかむしろ有難いくらいなのですが(笑)、قがأになるのは大違いで、なかなか苦しみます。「痛み」と「ペン」が両方「アラム」です(笑)。
 また、有名な話ですが、جがg音で発音され、これはエジプト人がフスハーっぽく喋ろうとした時でも残る傾向があるので、かなり強く刷り込まれた音のクセのようです。カイロ市内で看板を良く見ていると、j音のために本来アラビア語にはない別の文字(جの点が三つになったもの)が使われていることがあります。
 他に発音については、何でもカスラ(i母音)になりたがる傾向があります。この「イー」とか「エー」という響きが、個人的には今ひとつ好きになれないのですが(笑)、エジプト人がそう喋るのだから仕方ありません。最初の頃は「何でみんな怒ってるんだろう」とビビったくらいキツい印象があるのですが、もう慣れました。
 これについて先生と話していた時、先生が「アーンミーヤはمكسورだ」と言ったのが面白かったです。マクスーラというのは、「母音がiになっている」とも「壊れている」とも受け止められるので、ダジャレになっているのです。
 フスハーの先生なら、当然「フスハーこそ正しいアラビア語」と考えていて、アーンミーヤは「ヤンチャ娘」みたいに捉えています。アーンミーヤの釈然としない文法法則について「どうしてこう変化するの?」と質問したりすると、肩をすくめて「まぁ、アーンミーヤだからね」と答える調子です。
 そうは言っても、せめて聞き取りだけでもエジプト方言がわからないと、生活していて不便なことが多いので、地道に頑張ります。こんなことなら、入門レベルだけでも日本で勉強してくれば良かったです。
 わたしが喋るとどうしてもフスハーになってしまうので、アーンミーヤの授業中にうっかりフスハーが出ると、いつの間にか先生も釣られてフスハーになっていて「どうしてわたしたちはフスハーで喋ってるんだ? 今はアーンミーヤの時間じゃないか」と笑うことがあります。
 多分、フスハーを学んでいるアラブの子供たちの教室では、遥かに高いレベルででしょうが、逆の現象が見られることでしょう。

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