モガンマアで事務手続き後、やっとで二度目の観光を楽しみました。
タハリール広場を出発して、ブラブラ迷走しつつ東の方へ。一応ガーマ・アズハルを目指していたのですが、無計画に歩きたかったので、結局イスラーム芸術博物館のあたりで道に迷いました。
ウロウロしていると、ジュース売りのおっちゃんが声をかけてきます。家具職人見習いみたいにして働いている子供たちも、椅子をかついだままワラワラ寄ってきます。コテコテのアーンミーヤで、さっぱり何を言っているのかわかりませんが、ジュースを奢ってくれました。
疑心暗鬼ぎみになっていたこの頃でしたが、炎天下を歩き続けたところで飲んだジュースはものすごい美味しくて、涙が出そうです。「もうすぐラマダーンだし、俺たちエジプト人はみんなでっかい気持ちになっているんや!」みたいなことを言っているところだけ、微妙に聞き取れたつもりですが、わたしの妄想かもしれません。ともあれ、おっちゃん、ありがとう。
ジュースは美味しかったけれど、おっちゃんは言葉が通じないので、相変わらず道がわからないままテキトーにブラブラしていると、今度は路上で椅子に座ってくつろいでいるおっちゃんたちが(暇なおっちゃんのデフォルト状態)、空いている椅子を指して「座れ」と言ってきます。
何人か英語のできる人がいて、「何してるんや」みたいな話になります(そこは外国人がほとんどいない地域)。フスハーで答えていると「お前アラビア語ができるのか」「ムスリマなのか」と聞かれます。「違うけど、道に迷っていて、ガーマ・アズハルに行きたい」と言うと、現在地から道順まで親切に教えてくれました。
おっちゃんたちの一人はタクシーの運ちゃんだったらしく、道を教えてくれた後で「5ポンドで行く、そこは遠いぞ」としつこく言ってきますが、もう遅いです。商売したいなら、道を教えちゃだめですね(笑)。
わたしが「歩いて行くからいい」と断固につっぱねていると、他のおっちゃんが「その方が運動にもなるよなぁ」と味方をしてくれて、運ちゃんの誘いに勝てました。
アズハル通りは、ゴミゴミしたところで、高架の道路が走っているところなんかがギザ広場みたいで、歩いて気持ちの良い道ではないのですが、人込みに流されつつひたすら進んでいくと、突然ガーマ・アズハル(アズハルモスク)が現れます。
この「いきなり開ける感じ」が爽快で、思わず「すごーい!」と声にだしてしまいました。マジでかっこいいです。
このすぐそばにあるガーマ・フサインは輪をかけて美しいジャーミゥで、周囲の喧騒との対照が際立ちます。一大観光名所なので、周りは観光客相手の商売がひしめいています。

DSCN4464 posted by (C)ほじょこ

DSCN4474 posted by (C)ほじょこ
ガーマ・フサインの右手の通りを北上すると、しばらくは観光客相手の商店が続きますが、すぐに商店が途切れて、そこから奥は観光客が立ち入らない薄汚れた庶民エリアになります。
商店の少年が「中国人、そこから先は何もないぞ!」と叫んで来ましたが、中国人じゃないので進みます(笑)。
多分ガマレーヤ通りという道だと思うのですが、この通りで初めて牛を見ました。野良犬や野良猫、ロバ、馬はそこら中でいますが(羊もたまに)、牛を見たのはカイロ初でした。すごく毛並みの良い茶色の美人で、「牛ってキレイな生き物だなぁ」と妙なところで感心しました。
ちなみに、その辺に落ちているビニール袋をもしゃもしゃ食べていました。牛って一体・・・。

DSCN4486 posted by (C)ほじょこ
一番奥で、カーヘラの城壁のナスル門に突き当たります。道を渡って北上するのも面倒だったので、少し西に歩いてフトゥーウ門から入りなおしてムイッズ通りを南下。この門は、自動で地面に収納される車止めがあって、かっこいいです。観光警察が横にいて、許可車両?だけ通しているようです。
ムイッズ通りالشارع المعزは、さっきの通りとはうって変わって石畳のキレイな道で、観光客も多いです。
当たり前かもしれませんが、観光客の多い場所はそれなりにキレイになっていて、物売りがしつこくても、東洋人、というか女の一人歩きが冷やかされることもありません。その代わり何でも高いです。
そういう場所はリアルライフがなく、ウソ臭いと言えばウソ臭いのですが、そのウソ臭いのを楽しむのが観光だし遊びなので、ウソ臭さにちゃんと乗っかって酔ってみます。
途中、ナイフを二本手にした可愛い少女が、ナイフを研ぐように擦り合わせて音を鳴らしたり、器用に回したりしながら、ずっと着いて来ました。暗殺者にでもなるつもりでしょうか・・。

DSCN4508 posted by (C)ほじょこ
通りはガーマ・アズハルに突き当たり、ここからまたブラブラ歩いて、タラアト・ハルブ広場方面に帰還の途につきました。
タハリール広場とかタラアト・ハルブ広場とかは、一番外国人の多いところなのですが、ずっと街外れに軟禁されていたので、今まであまり縁がありませんでした。この辺(ウストゥルバラド)は、ちゃんとキレイで可愛いお店もあって、ものすごい快適です。信号があって警官が交通整理しているところもあります。「なんだ、こういう普通のところを昼間に歩いていれば、ちゃんと快適じゃないか」と、散々悪態をついてきたカイロを見直しました。ごめんなさい。
通りの名前が思い出せないのですが、タラアト・ハルブ広場からちょっと東に行ったあたりに、外国人の女が一人でぼーっとできて、かつ開放的なカフェが山ほどあって、夢のような空間でした。あぁ、外人はやっぱり外人用の場所で遊ぶのがお似合いなんだ、と思い知らされる感じです。
この辺を歩いている時に、日本語を話すH氏に話しかけられる。
普通はこういうエジプト人は完全無視なのですが、結局ちょっとお茶することになりました。
理由は二つあって、一つは彼が単に日本語の挨拶を知っているだけでなく、一応構文のある日本語で話しかけてきたこと(つまり、多少なりとも日本語を勉強している)。そして、こっちがフスハーで返したら、割とキレイなフスハーで話してきたこと。フスハーの美しい人にはどうも弱いです(笑)。
彼の日本語は上手とは言えませんが、挨拶だけ知っている「土産物屋日本語」ではなく、簡単な話ならちゃんと理解します。会話は主にフスハーで、アーンミーヤと英語と日本語が混ざった混成状態でしたが、意志の疎通にはほとんど困りませんでした。
信用できる人だとは全然思っていない、というか信用できなさがバレバレなところがかえって信用できるくらいの人なのですが(笑)、カイロでブラブラしている「ダメ外国人」とよく遊んでいるらしく、色々情報を引き出せました。軟禁されていないで、もっと外に出ないと損ばかりしていそうです。
「日本人は技術はすごいのだろうけど、何でも怖がってみんな同じようなことをする。リアルライフを知らない。怖がって何もしないのはバカだ」と言います。一方で、「僕が声をかけても、ほとんどの日本人は話してくれない。どうしてなんだ。僕は観光客相手のビジネスをしているのではないし、悪いエジプト人じゃない」と言うので、「それは彼らが、自分たちがリアルライフを知らない、ということを自覚しているからだよ」と答えました。
「良いエジプト人と悪いエジプト人がいるくらい、わたしだって知っているし、何でも怖がっていたら損なのはわかる。でもほとんどの日本人は、良いエジプト人と悪いエジプト人の区別が付かないし、自分たちがリアルライフを知らず、そういうやり取りが下手糞なのも自覚している。だからまとめて全部近づかないようにして、日本人がやることしかやらないようにしているんだと思う」。
これはただのわたしの意見なので、日本人の行動原理を本当に説明できているのかはわかりません。また、「リアルライフ」が素晴らしいものだとしても、一定の警戒心をもって臨むのは当然だし、「所詮籠の中の鳥」という割り切りも重要だと思います。日本人で、エジプト人の「リアル」に100%着いて行けるのは、相当エネルギッシュでタフな人間だけでしょう。
「カイロでは誰もフスハーで話したりしない。アーンミーヤに慣れないとダメだ」と、まったく仰るとおりのことを語るH氏でしたが、同時に、ベドウィンなどの「古いアラブ」は、本当にフスハーで会話している、と、D氏と同じことを言っていました。「彼らは読み書きはできないけれど、日常でフスハーを使っている」。
「日常生活でフスハーをそのまま使っているところはない」という、日本の教科書によくあるフレーズは、半分正しくて半分間違っているように思います。
大都市圏であれば、おそらくどこの国でも、フスハーをそのまま日常使っているところはないでしょうし、書き言葉とニュースと教育関係、公式な情報、宗教関係にほぼ限局されると思います(一定の教育があれば、フスハーで会話しようと思えばできるが、普段そんなことをしたら笑われるので、日常生活では使わない)。
一方で、フスハーで会話している人々が存在しないかというと、そうとも言い切れないようです。直接見たわけではないので非常にこころもとないですが、「古いアラブ」には本当にフスハーだけを使って生きている人々が現存するらしいです。
宿の近くのよく行く店で、米とكالاماري طاجنカラマリ・ターゲン(イカのトマトソース煮)を食べる。そんなものだけ頼む人はいないので、「お前いっつも米やなぁ」という感じにウケてしまう。いいやんか! 日本人やから米好きなんじゃ!
トマトソース煮はちっこくて助かったし美味しかったのですが、たんぱく質を食べられる体調ではなく、イカのトマトソース煮なのにイカはほとんど食べずに残してしまいました・・。
さんざん歩いて「寝よう・・」と宿の目前まで来たところで、マタァムの店員で、夜はすぐそばの会社で働いているダブルワーカーのムスタファーくんにバッタリ会う。
通りに椅子を出してくれて、二人でしばらくダベる。夜の空気がとても気持ちいい。
彼のフスハーは先生の言葉ほど親切ではないのですが、何とかしがみついて会話する。
彼は日本にかなり興味を持っていて、敬虔で勤勉な青年です。宿の面々とはすっかり顔馴染みになって、かなりキャラも把握してきたのですが、彼は若い店員の中では割と信心深い方で、冗談も言うけれどちょっと堅物で生真面目なところもあります。歩き方が剣道やっている人みたいで、なんかエジプト人らしくないです(ちなみに、エジプト人全般について、白人と違って顔を覚えやすいと感じるのはわたしだけでしょうか)。
日本や北朝鮮、中国のことについて、その政治・経済に関しては割りと正確(というより、単にわたしたちと同じ)情報を持っているのですが、文化とかテクノロジーについては、誤解していたり大げさに受け止めているところがあります(これは彼に限ったことではない)。
「日本にはコントローラーを使わないで考えただけで操作できるゲームがあるそうだけど本当か?」「東京はリニアモーターカーが走っているの?」「船にも飛行機にもなる車があるというのは本当?」と、冗談なようなことを聞かれました。「そういう研究はあるかもしれないけど、少なくともわたしは見たことないよ・・」と答えました。それとも、知らない間にそんなすごいゲームが出ているんですか? わたしが知らないだけですか?
まぁでも、日本人だってエジプトは一年中暑いとか市内をラクダが歩いているとか信じている人が沢山いるし、うちの母親もニカーブは暑いから被っているんだと思っていたし、どっちもどっちだと思いますけれどね・・。
政治についての彼の考えは、共感できるところが多くて、話していてとても楽しいです。
「イランはムスリムの国だが、イスラームが法的に強制されるのは良くない。この国では、誰にも強制されず、自分の意志で各人のしたいように信仰を実践している。信仰は重要だが、制度で強制するのはおかしい。核開発も容認できない」「サウジはわれわれムスリムにとって非常に重要な国だが、彼らは石油に依存していて働かない。そういう姿勢は人間を堕落させる」等、素朴ですが、ベースのところでは個人的に安心して話せる相手です。また、M先生のように、政治情勢の背後に徒らに陰謀論を読み込んで何でもアメリカのせいにするようなところがありません。
イギリスが嫌いなのは多くのエジプト人に共通したことでしょうが、ロシアも面白くないらしいです(エジプトは結構な数のロシア人が住んでいる)。
それにしても、一応勤務中のはずなのに、こんなに路上でお喋りしていて大丈夫なのでしょうか。他の場所を見ていても思いますが、エジプト人は宵っぱりでタフで、ダブルワーク・トリプルワークも珍しくない代わり、仕事はチンタラやって時々居眠りすることで、バランスを取っているように見えます。
お喋りしていたところで、他のマタァムの若い店員二人が通りがかる。ムスタファーくんが冷やかされて「今、政治の話をしていたんだ」とか言い訳している。本当にそうだけれど(彼は婚約者がいるし、わたしも色々面倒なので「婚約している」ということで通している)。
しばらく四人でダベって、自室に戻る。
彼らのアーンミーヤでのやり取りに半分くらいついていけて(聞き取りだけ)、少し嬉しかったです。
長くて楽しい一日でした。
ガーマ・アズハル、ガーマ・ホセイン、エジプト人の考えたすごい日本の技術
エジプト留学日記