ヒシャームはテレビから「国家メッセージ」を受け取る
彼の状態が変わり始めると、彼は一人で支えている家族を等閑にし、本を抱えて横になり、大きな声で読むのに没頭した。そこは彼の店の中で、いつも売り買いが飛び交っていて、通行人に聞こえるように読んでいるのだ。
四十二歳になるヒシャーム・アウドの身に降り掛かった変化に皆が気付き、彼を避けようとし始めた。神経質になり、些細なことに反応し、皆と喧嘩になり、誰でも彼の意見に歯向かう者は敵であって、彼を待ち伏せし、陥れようとしているのだ。彼は、凄まじい能力の持ち主のつもりなのだ。
仕事が忙しくなると、自分で店の扉を閉め、読んでいる小説の登場人物分析やテレビを見ることで良しとしてしまう。テレビは、彼によると「国家からの暗号メッセージ」を彼に届けており、このメッセージは彼が常に正しく偉大で他人の心を読むことができ、ということを伝えている。彼の語るところでは、彼は国家の求めている専門家なのだ。
誰もがヒシャームの心の病に気付き、新しい段階が始まった。ヒシャームはそれに苦しんでおらず、彼の言うところでは「人生で最高の日々」を生きていた。
彼が想像の中で待っているのは「共和国からの表敬だ。これこそ私に相応しく、人々からの迫害を補償するものであり、私の物質的問題を解決するものだ。この問題は、私が他人の心を読むようになってからますます増えている。表敬と、創造的な地位に相応しい評価がくだされることを待ち続けるだろう。テレビにあるすべての国家のメッセージと暗号が、表敬の時は近づいており、国家がわたしの読心術と人格分析能力を評価するまで、あと少しの辛抱だと言っている」。
苦しんでいるのはヒシャームの家族だ。問題がついてまわるようになった。世間の目だけではなく、ヒシャームにいかに病気だということを分からせ、彼の心を満たしているのが正しくない考えだという事実に向き合わせるかが問題だ。彼は、彼の信念を否定したり批判する者とはいつでも戦うと宣言しているのだ。たとえ息子や兄弟、妻であっても。
ヒシャームが自分の病的状態を理解せず治療を拒むので、家族はある精神科医の元を訪れることになった。この医師によると、彼は統合失調症の初期状態にあり、この状態では、多くの精神病者と同様、自分が病気であることを理解できないのだと言う。
「一つの方法は、精神療養所に入ることです」。これが医師の意見だったが、家族はこの提案を激しく拒んだ。ヒシャームが療養所に入るとしたら納得してではないし、決して受け入れないだろうからだ。以前に彼の妻が治療を提案した時には、離婚の脅しを受けたのだ。
家族が躊躇するのは、ヒシャームが二十年以上続いている結婚生活を終わらせることを恐れているからではない。彼の妻カリーマはこう語る。「わたしたちは田舎に住んでいるんです。こういう話は醜聞になって、わたしたちが彼を無理やり病院に入れたって言われるんです」。
エジプトの精神医療 4
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