エジプト人の接客態度、ファストフードの不快感

 エジプト人の接客態度は悪いです。
 といっても、日本の接客業が異様に態度が良いのであって、世界的にはこれくらいの方がむしろ普通でしょう。
 ブチキレ閾値が異様に低い人間なので、日本では態度の悪い店員によくムカムカしていたのですが、エジプト人の接客態度の悪さには、不思議と腹が立ちません。理由を考えると、まず、「お客様は神様」「客は店員より上」という前提が、そもそも存在しない、あるいは希薄だから、というのが思いつきます。
 態度が悪いといっても、日本のようなサービスをしない、というだけで、非常に人懐っこく話しかけてはきます。仲良くなると、ちょっと日用品を買いにいっただけで「最近見なかったけどどうしてたのー」「いつものパン、今日は売り切れなんだ、代わりにこれオマケしてやるよ」とか、滅茶苦茶親密です。小さな個人商店だけではなく、スーパーマーケットですらそういうことがあります。
 要するに、彼らの客-店員関係は、普通のご近所付き合い等の人間関係とまったく変わらず、友達なら話すし、友達じゃないなら無愛想に流しているのです(外人の場合、ものめずらしさから仲良くしてくれることも多い)。客-店員関係がまったくないとは言いませんが、日本の千分の一くらいだし、友達以外に対しては「お金をもらった対価は商品やサービスでもう返しているから、スマイル欲しけりゃバクシーシよこせ」というのが基本です。
 これはこれで「それもそうだな」と納得させられてしまうものがあり、慣れると日本式より遥かに気楽です。「不満があれば言わないヤツが悪い」空気が満ち満ちているエジプトですが(この空気も今では楽)、例えばスーパーのレジで、前の客がレジ係と長い世間話に突入していても、文句を言うと「黙って待っとけ」とツッコまれそうな雰囲気があります。
 ちなみに、買い物をして「ありがとう」と言うのは、大抵は客の方です。釈然としない方もいらっしゃるでしょうが、個人的にはしっくりくるし、楽チンです。「こんな紙切れを米と代えっこしてくれてありがとう!」と優しい気持ちになります。
 大体、日本の儀礼的に丁寧な接客を受けて、本当に満足でしょうか。変な作り笑いをされて言葉だけ丁寧にされても「仕事だからって思ってるんやろな」とこっちも気疲れするだけです。服を買いに行ってギャルっぽい店員にアレコレ話しかけられるだけで、購買意欲が半減します。もちろん、接客する側になど絶対なりたくありません(かつては色々やりましたが・・)。
 もちろん、エジプトだからといって、すべての店で態度が悪いわけではなく、相応のお金を出せば至れりつくせりのサービスが受けられるはずです(行ったことがないのでよく知らない)。ただ、「金はない、サービスもいらん」というチャンネルが大きく開かれているところが、日本と違います。日本ではどんなショボい店でも、最低限の接客マナーというのがあるでしょう。個人的には、スマイルいらないので安くして欲しいです。
 このように、割と肯定的に見ているエジプトの接客態度ですが、一つだけ気に食わない場所があります。
 KFCなどのファストフード店です。
 これらの店が、他の店に比べて特別態度が悪いということはないし、むしろ欧米的な接客教育を一応受けているのですが、なぜか無性に腹が立つことがよくあります。
 一つには、チェーンのファストフードは日本にもあるので、つい同じ基準で考えてしまう、ということがあるでしょう。これはわたしが悪い。
 しかし、それだけではなく、ファストフードには独特の態度の悪さがあるのです。「何が違うのだろう」と考えると、普通の店の無愛想さは、その人本人の「昨日寝てなくてだるい」とか「従兄弟が来てるからお喋りに忙しい」といった、まったくの個人的勝手に由来しているのに対し、ファストフードの店員は、一応形だけマニュアルに従おうとしていて、かつマニュアル通りにやるのがイヤでイヤでたまらない気持ちが全身から放たれているから、と思い当たりました。
①普通の店は、枠がない(あるいは、非常に緩い)。だから、個人の勝手がダダ漏れになっている。
②世界規模のチェーン店には、枠がある。だから、個人は枠に従わされているのですが、それが窮屈でたまらない気持ちが、ダダ漏れになっている。
 この②の方のダダ漏れは、向き合っていて非常に気分が悪いのです。「お客様は上」が全然ないと気にならないのに、この前提が一応押し付けられて、なおかつ心が抗っている感じが、すごくイヤーな空気を醸し出しているのです。「そんなにイヤなら、マニュアルなんて守らないでもいいよ、むしろ守らないでくれ」と言いたくなります。
 考えてみると、日本の接客というのは、②の「ダダ漏れ」のところが、洗練されて漏れなくなっているだけです(漏らしているとクビになる)。一皮向けば一緒のところが、エジプトでは皮一枚も残っていない、というだけです。
 そう思うと、ファストフードの不愉快さは、日本の接客の嘘臭さに感じる不快感と通低している気もします。彼らが全身から放っている「仕事したくねー」というオーラは、多くの日本人労働者が噛み殺している苦痛と、同種のものなのです。
 そんな辛い思いをして形に従うくらいなら、むしろ一切従わないで、思うがままにのびのびやってくれる方が、こっちも気楽です。日本の労働者も、眠かったら会社に行かない方が良いと思います。
 眠いから寝ているのは構わない。友達が来たら喋っていてもいい。
 でも、機械のフリして疲れるのはやめろ。無理するな。こっちが疲れるから!
アイスクリーム屋さん
アイスクリーム屋さん posted by (C)ほじょこ

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