エジプトでの豚インフルエンザ、アスワーン方言とフスハー

 今日は、いつも習っている先生以外の学校で、初のお試し授業。
 今習っている先生は、付き合いも長いので切るつもりはないのですが、経営者でもあるため非常に多忙で、最近は特に家庭の事情で度々授業が流れます。ちょっとイライラするので、他の学校と併用することにしたのです。
 家庭教師派遣ではなく、学校での一対一もしくはグループレッスン。今の先生よりいくらか割安ですが、期待していた程安くありません。
 でも、場所が決まっているというのは安心感があるし、わたしが訪れた時はマネジャークラスらしい先生以外は全員女性で、ほぼみんな愛想が良かったです。こちらに来て以来、話す相手には事欠かないものの、大家さん一家を除くと他はほぼ全員男性です。これはちょっと不自然だし、エジプトではかなり異常なことなので、女の先生に教えて貰えるのは良いかな、と思いました。
 担当して頂いたF先生は礼儀正しくフスハーもキレイで、質問したところは板書のようにメモに書いてくれます。
 今日は豚インフルエンザ(日本での「新型インフルエンザ」はエジプトでは「豚インフルエンザ」と呼ばれているし、英語圏のメディアでもほとんど「豚」だと思います)の話題になり、わたしが「豚インフルエンザは、世間で騒いでいるほど危険なものじゃない。普通のインフルエンザだって危険は危険だし、誰でも病気になる時はなる。わたしは豚インフルエンザより、人々の恐怖が怖い」と言ったところ、「わたしもそう思う。インフルエンザが怖い怖いと恐れていると、かえって身体が弱くなる。やたら恐れるべきではない」と同意してもらえて、非常に楽しく話せました。
 彼女は「寿司が好き」と言っていて、エジプト人には珍しいです。以前に「日本人は毎日寿司を食べている」という誤情報を他の日本人からインプットされてしまったようで、「いや、普通の人は毎日寿司なんか食べない。寿司は日本でも高い」と言っておきました。わたしの情報が正しいですよね? それともみんな毎日お寿司を食べているんですか?
 肉をほとんど食べないわたしに対し、彼女は「肉はなんでも好き!」だけれど「ウサギだけは食べない」そうです。子供の頃うさぎを飼っていて、それを食べるなんて言語道断だと信じているわたしにとっては、癒される嗜好でした。
 それにしても、ダブルスクール状態になって、ますます経済状況が逼迫してきました。稼がないと帰りの切符が買えません。
 新聞の見出しでは連日豚インフルが話題にされていて、メトロではヒジャーブの裾で口元を覆っている女性も時々いるのですが(マスクも極稀にいる)、エジプトではこれはかなり異様な振る舞いです。先生も「あれは変だ」と言っていました(日本では花粉症等によりマスクをする習慣があるので、別にしたければしても構わないと思いますが)。
 もちろん、病気は怖いし、豚インフルも危険は危険でしょうが、危険なんて言い始めたら、カイロでは道路の横断の方が遥かに危険です(笑)。食中毒が怖かったら買い食いもできません。人間、誰でも病気になる時はなるし、問題の一つや二つはあるもので、最後には必ず死にます。すべてはアッラーの意志でしょう。恐れて縮こまるのは愚かなことだし、武道やスポーツと一緒で、恐怖に負けると、避けられる打撃もかわせなくなると思います。
 わたしは自分の恐怖が一番怖いです。
 夕方にいつものS先生の授業。
 今日の授業で、アスワーン方言について面白い話を聞きました。
 シャルムに行った時に、アスワーン出身者がقلبを「ガルブ」と発音していたのですが、アスワーンではقはg音に変化するそうです。カイロ方言のأへの変化に比べると、大分穏やかです(それだって外国人が聞いたら厳しいですが・・)。
 アスワーン方言全般に、カイロ方言(いわゆるエジプト方言)に比べると、フスハーに近い、とのことです。
 例えば、
كيف حالك؟(カイファ・ハールカ? ご機嫌いかがですか?)
は、カイロ方言では「イザーィヤック?」とまるで違う形になりますが(howに相当する疑問詞自体が跡形もなく変形している)、アスワーン方言では「ケーフィック?」または「ケーフ・ハーラック?」で、文字に起こしたら同じになるくらい、近いです。
 地方になればなるほど、外部社会との交流が少なく、諸外国語からの影響も少ないため、古いアラビア語が残っている率が高くなるのでしょう。それでも、カスラ(i音)に引っ張られるところはカイロ方言と共通しているのが面白いです。エジプト人、本当にカスラ好き(笑)。二人称人称代名詞の性が、直前の母音で代替表現されるのも一緒のようです。
 以前にDさんが言っていた「ベドウィンは生まれた時からフスハーだけ話している」というのは極端にしても(不正確な情報)、彼らの方言もまた、カイロ方言に比べればフスハーに近いのではないかと思います。
 ますますアスワーンに行きたくなってきました。
 今日得たマメ知識「砂糖に蟻がたかっていたら、砂糖ごと直射日光の下に置いておくと、蟻がいなくなる」。
 本当でしょうか。一回お砂糖に蟻がたかって丸ごと捨てて以来、砂糖を買うのをやめたのですが、機会があれば(あんまり嬉しくない)試してみます。紫外線パワーが強力なエジプトならではの方法なのかもしれません。
 ちなみに今、エジプトではお砂糖の値段が上がって、庶民の暮らしを直撃しているのですが、彼らのお砂糖への愛は尋常ではないので、このマメ知識も本当かもしれません。砂糖の入れ物に「塩」と書いて蟻が来るのを防ぐ、というジョークもあります。
 今日の授業中、珍しくS先生がアメリカの悪口を言っていました。
 外国人相手の商売をしているせいか、特定の国をネガティヴに言うことはほとんどないし、「どんな国にも良い人と悪い人がいる」という当たり前のことはよくよく認識しているのですが、それを差し引いても「すべてではないが、アメリカ人には傲慢な人が多い」とこぼしていました。
 何かというと歴史の長さやら中世のイスラーム全盛時代を持ち出すエジプト人もどうかと思うし、日本人も謙虚というより単にお人好しで話下手なだけじゃないのか、という気がしないでもないですが。
 夜に大家さんとその娘がやってきて、何故か部屋のソファを交換していきました。何となくグレードアップした気がしますが、一体なぜソファを交換してくれたのか、今もって理解できていません(笑)。
 それより洗濯機の方が重要ですが、明後日にとうとう到着するようです。明後日と言われたら再来週くらいに思っておいた方が安全ですが、もうすぐ三ヶ月になろうとするカイロ生活で、遂に洗濯機が我が家にやってくるかもしれません、インシャアッラー。
 今日の新聞で、豚インフルエンザのせいで夏休みが伸びまくっていた学校がとうとう始まった、というのを読んだのですが、大家さんの娘もその話をしていました。マスクをして学校に通っているそうです。
 学校を休校にしたくらいで感染拡大が防げるとは思わないし、学校の外で接触してしまえば一緒のことだと思いますが、エジプトでは特に女の子は家に篭る時間が長いので、日本における休校よりはいくらか意味があるかもしれません。
 わたしはすべてをアッラーに預けて、予防は手洗いとうがいくらいにしておきます。豚インフルの前に車に轢かれないように気をつけます。
馬に乗る人の絵
馬に乗る人の絵 posted by (C)ほじょこ

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