なぜか二日続けてDさんと会いました。といっても、二日ともカフェでサッカーを観戦していただけです。
今日はエジプトが4対2でイタリアに快勝! ショクリーという選手が二点、途中交代で入ったボギー選手が二点です。「シュクラン、ヤー、ショクリー! シュクラン、ヤー、ショクリー!」という実況のフレーズが耳にこびり付いています。語呂がいいですね。
サッカーに興味のないワタクシですが、マクハーでも通りでも、至るところで屋外に出したテレビを前に人々が熱狂していると、やっぱり気になります。日本では長年一人暮らしで、つい最近までそもそもテレビも持っていなかったのですが、みんなでテレビを見るって結構楽しいです。
ちなみに、エジプト代表にムハンマド・タラアトという長髪のイケメン選手がいるのですが、中継の途中で流れるコーラのCMで、彼が「コカコーラ」と日本語で書いてあるTシャツを着ています。
ハーフタイムとか試合後に、いつものようにあちこち線を引いた新聞を見せて「これどういう意味?」「何か例文作れない?」とか子供のようにまとわり付くと、辛抱強く教えてくれます。ほとんどのエジプト人は、こういう質問をしても役に立つ答えを返してくれないのですが(日本人だって一緒でしょう)、彼の説明はいつもわかりやすく、教師の才能があるんじゃないかと思います。
もちろん、試合中はまったく相手にされませんが・・。
エジプトでは、とにかく皆異様にフレンドリーに声をかけてくるので、最初の頃はホイホイ相手になって友達になれた気でいたのですが、向こうから来るのは男性だけで、かつ男性と適度な距離で普通の友達関係を維持するのが、日本の百倍難しいです。最初の頃は要領を間違えて、関係が切れてしまった人が沢山います。
完全に絶ってしまうのが一番安全なのですが、それではつまらないし、率は低いですが、ちゃんと友達になりたい人というのはいます。無謀かもしれないし、ムスリムが大多数の国で愚かな行動をしているかもしれませんが、できればうまく交友していきたいです。「どんな信頼できそうな人でも、二人きりにならない」「友人関係であることを繰り返し強調する」とか、日本より遥かに大切です。
そんな中、なぜかDさんとは細く長い縁が続いています。彼はドイツ人相手のガイドで、単にカイロに来て最初に泊まっていたホテルのロビーで知り合っただけなのですが、海外経験もありインターナショナル・マインドがありながら、同時にフスハーをこよなく愛していて信仰熱心なところが、付き合い易いのかもしれません。
ガチガチのローカルな人というのは、やはり正直付き合い易い対象ではありません。外国人が価値観や言語の相違でどんなところがしんどいのか、まったく理解できないことが多いからです。もちろん100%理解されることも理解することもできないのですが、できないなりに「こいつは日本人やし違うんやな」くらいは察して欲しいのが率直なところです。
一方で、やたら欧米かぶれで英語ばかり喋っている人種もそりが合いません。「フスハーなんて誰も使わないよ」みたいな態度を取られると、フスハー愛しさに仕事やめてまでエジプトに来ている身としてはムカッときます(笑)。
Dさんと最初に出会った時は英語で会話していたのですが、その後フスハー、最近は主にアーンミーヤで時々フスハー、という具合に、言語を合わせてくれているのも助かります。
少し前に彼とはちょっと気まずいことがあり、わたしが「それはハラームだ、誰もいなくてもアッラーは見ている」と非難してしまったことがありました。「正式にムスリムでもないわたしがそんな僭越なことを言っても、何の価値もないだろうな」と思っていたのですが、先日会った時に、彼がその言葉を持ち出して、謝ってくれました。
もう今では怒ってもいなかったので「気にしないでいい、別に怒ってないし悲しくもない」と言ったところ、「いや、僕が悲しかったんだ。君はムスリムでないのに、アッラーはいつも見ていると、正しいことを言った。後になってとても恥ずかしかった」と、エジプト人なのに(失礼)びっくりするくらい謙虚な姿勢で、一段株が上がりました。
その彼が、最近すっかりアーンミーヤに振り回されていて、高速アーンミーヤがさっぱり聞き取れずにションボリしているわたしに「フスハーが第一だ、まずフスハーの勉強をしっかりして、アーンミーヤはその後でいい」と言います。
逆のことを言うエジプト人は沢山いるのですが、こんな言葉を先生以外から聞くのは珍しいです。
「フスハーで話しかけられて笑うエジプト人がいるかもしれないが、それは彼らの方が間違っている。きちんと話せば、必ずフスハーで通じる。無知なヤツらの言うことに耳を傾けちゃだめだ。僕は小さな村の出身だけれど、そこの方言でもカイロ方言とは違う。アーンミーヤなんて、エジプトでしか通じない」
「そうは言っても、わたしもみんなが話している会話を理解したいんだよ」
「僕はドイツ語を学んでいるけれど、ドイツ人同士が早口で会話していると、ほんの一部しか聞き取れないことがよくある。外国語なんだから、全部を理解する必要なんてない。フスハーだけでも大変なことだ」
そう言われると、ちょっと勇気が出てきました。
いや、アーンミーヤはアーンミーヤで面白いので、コツコツ勉強していきますが、初心を忘れずフスハーを大事にしたいです。
今日は初対面の彼の友人もちょっと同席したのですが、わたしがアーンミーヤが下手だと聞いていたらしく、最初から見事なフスハーで喋ってくれて、感激しました。軽々しく握手を求めないでジェントルマンでした(エジプトでは、男性が女性に対する時は、女性が手を出すまで握手を求めないのが礼儀正しい。でも外人だと見ると自分から手を出してくる男性が非常に多い)。
フスハーを読んでいると、それが唯の新聞記事でも、子供向けの本でも、何か荘重で、大きな存在に包まれているような安心感があります。大きな熊にだっこされているみたいです。何でしょうね、これは。歴史のある言語ならではの重さなのでしょうか。
フスハー、ナンバルワン!です。

エジプト・イタリア戦観戦 posted by (C)ほじょこ
エジプトがイタリアに快勝、フスハー、ナンバルワン!
エジプト留学日記