日本人アラブ文学研究者K氏とお話した時のことで、一つメモし忘れていたのですが、彼が「エジプトの新聞の論説は難しい」と言ってくれて、ちょっとホッとしました(笑)。
一般のニュース記事は簡単ですし、文化記事や特集記事のようなものも難しくありませn。ところが、社説や識者が一家言述べるコーナーになると、途端に難易度が増すのです。異様に格調高い文体で書かれていて、他で見たこともないような慣用表現が頻出します。ゴリゴリに文学作品を読みこなしている彼が「難しい」と言ってくれて、「わたしだけじゃないんだ」とセコい安心感を抱いてしまいました。
また、アラビア語を学んでいる人は誰でも知っていますが、アラビア語の文章は一般に一文が非常に長く、下手をすると一ページ丸々一つの文だったりします。一段落一文くらいはザラです。様々な接続詞を駆使して滔々と繋げていくのがアラブ的には「美しい文章」で、実際にカッコイイのですが、日本語に訳そうとすると、非常に骨が折れます。
日本語とアラビア語は、語順が悉く反対で、「英文解釈」的発想でつい後ろから訳してしまいたくなります。ところが、ワンセンテンスが長大なので、こういう大学生的方法では、いつまで経っても訳し始められません。アラビア語として読んでいる時は理解できているのに、翻訳してみようとすると筆が止まる、ということが非常に多いです。同時通訳的発想で、バンバン日本語に落として、後で辻褄を合わせることがよくあります(笑)。
また、些細なことですが、個人的に気になっているのはカギカッコの使い方です。
カギカッコというのはタグであって、「開始」されたら「終了」のタグが来るまでが台詞、というのが、普通の理解だと思います。
ところが、エジプトの新聞を読んでいると、「開始」の後、ずっと台詞だと思って読んでいたら、また「開始」のタグが出現することがあります。「終了」が来ないまま文章が終わってしまうこともあります。パーサーだったら即効お手上げの状態です(笑)。
最初は誤植かと思っていたのですが、あまりに多く見かけるので、これは一つのスタイルのようです。
この場合、どこかで台詞が終わっているはずなのですが、終わりの場所は明示されていません。何気にいつの間にか地の文になっていて、大抵はピリオドのところで台詞が終わっている、と解釈できるのですが、前述の通り、アラビア語は一文が長いので、なかなかピリオドが来ません。時には、ピリオドが来る前に、一つの文の中で台詞が終了しているらしいことすらあります(何らマークがないので確信はありませんが)。
アラブには演説や「声に出して美しく朗読する」伝統が色濃く、今でも詩人が社会的に高く評価されています(それに比べて小説家は不遇w)。推測ですが、書き言葉のテクストも、この「朗読」のノリで、サウンド第一で書かれているものが多いのかもしれません。
大衆の読み物である新聞ですらこの有様。アラビア語、恐るべし。
水曜日。
帰宅途中にウストゥルバラドで、背後の若者三人がまた「ボーヤボーヤ」だの中国ネタでからかってくる(「ボーヤ」は「不要」のことらしく、映画の中の中国人の台詞を真似している)。
何となく即効振り返って一人の胸倉をつかんで突き飛ばし、「誰がボーヤや。お前なんて言った?」と突っかかると、「俺じゃない」とかシラをきります。
この「俺じゃない」は超定番なので、「何がお前ちゃうねん。お前がシーニーか? よぉ中国人、エジプトへようこそ。ニーハオニーハオジャッキーシェーン!」とか、意味不明にまくし立ててストーキング開始です。
「いつも自分らそう言うてるやん? 今うちは貴方様方の国にいるんだから、あんたらのやり方と一緒にしなきゃいけないやんね、中国人。アラブのホスピタリティやんね! 最高やね! 何で黙ってんねん。何か言ってみろ。クソ中国に帰れ嘘つきが、無神論者が、お前は地獄に落ちる!」とか、まんま狂人な台詞をまくし立てると、さっきまであんなに元気だった若者が、目を伏せてひたすら避けようとして、めちゃくちゃ面白いです。
ああいう連中は、相手が黙っているからキャーキャー言うだけで、日本の男の百倍ファンタジーに守ってもらわないと口もきけないのです。だからその夢をずたずたに引き裂いて、中国の女は頭がおかしいということを見せ付ければ、何もできなくなります。
それにしても、こういう時の台詞だけは、我ながら機関銃のように操れるようになりました。まぁ、使用頻度高いですからね・・・。
念のためですが、わたしは中国人は別に嫌いではありません(というか、エジプトに来て以前よりずっと好きになった)。中国人と東アジアの女をナメてかかっているエジプトのバカどもが嫌いなだけです。
奴らはムスリマではない外人、特に東アジアの女なんて動物としか思っていませんし、放置すればどんどん調子に乗るだけですから、楽しんで苛めてあげましょう(マトモなエジプト人はこんな真似はもちろんしないですが、そういう人は道でブラブラしていたりしない)。
木曜日。
1月7日はコプトのクリスマスで、エジプトは休日です。道もメトロもガラガラにすいていて最高です。
新聞を読んだら、「今日は何の日」コーナーに天皇陛下が登場していました。

昭和天皇崩御の日 posted by (C)ほじょこ
昭和天皇崩御の日です。内容は日本人なら皆知っていることなので省略。
アラビア語の文章構造、中国を哂う者を中国と罵る
エジプト留学日記