エジプト・ガザ国境の街ラファフからのリポートです。
両国境は封鎖され、現在金属障壁の建設が進められていますが、これには広い範囲から批判が浴びせられていて、ガザ支援のための秘密トンネルも無数に建設されています。
なお、文中に登場するイル=アリーシュは、国境に程近い拠点となる街。

ラファフリポート posted by (C)ほじょこ
ラファフ住民:検問所が閉鎖されている限りトンネルは続く
国境両側の商人たち:「イル=ワリードとイッ=シャルヤーン」の壁の分断以前から、物品の密輸で時を競っている
「時は剣の如し。斬らざれば、トンネルが壁を斬る」。これがエジプト側ラファフの現状だ。住民たちは、住居にトンネルを迎え入れ、地面の下の通商活動と密輸を利用し、エジプト当局の建てた治安障壁の問題に対応し、これを現実的な対処と考え適応している。
ラファフは待機と監視の街となり、誰もそこから発展が導かれるとは考えていない。これが始まったのは、イスラエルのメディアがガザとの国境の最初の金属障壁を報じてからで、この後、掘削機械への銃撃があった。
匿名のベドウィンによると、壁は半分完成しており、スルターンの丘に始まり、イル=サルスーリーヤで終わっている。唯一の障害は国境線に隣接したサラーフ・ッディーンの場にある住居である。一方、治安筋によると、作業は今までのところ「治安ポイント」と呼ばれる部分で止まっている。
本紙は、国境における直近のハマースによるデモの直前にラファフを訪れたが、緊張がその日の夕方まで続き、道には治安部隊が待ち伏せ、イッ=シェイフ・ズワイドに始まり、ラファフ検問所まで続き、密輸品を積んだ車を拘束できる状態だった。しかし、日没が近づくとすべてが様変わりし、昼間のラファフと夜のラファフは別物だった。国境沿いの道では警官と治安部隊が増強されるが、イル=マースーラ(訳注:パイプの意だが、道路の通称名と思われる)やイル=ゴーラのような何十もの幹線道路では、治安が欠如が見られる。夜の始まりと共に、物資を運ぶ車が整然とエジプト側ラファフのトンネルの入り口に集まる。国境の反対側のハマース責任者の会見によると、ここから二百万人のパレスチナ人に生活必需品の三分の二が供給されている。
トンネルおよび倉庫の最重要関係者の一人アブー・ムハンマドの、ラファフのイル=マースーラ地区から程遠くない自宅を訪ねた。撮影を拒み、自身について多くを明かさない彼が述べるには、たった十分でいつでもガザに入ることができ、イル=アリーシュは一年半もの間訪れたことがない、とのことだ。
理由を尋ねると、彼はこう述べた。「あそこにはトンネルや密輸関係で、投獄を決める三千件の欠席裁判があり、わたし自身も、欠席裁判で三年の刑が言い渡されている」。
お陰で彼は捕まっておらず、我々は二人のパレスチナ人商人と知り合いになることができた。二人はトンネルを通ってエジプト側ラファフに来て、素早い取引で食料品を手に入れ、同じ道でガザへと戻っている。
アブー・サーリフとアブー・イル=アブドの二人の商人は、我々と安心して話をするのに、とても長い時間がかかった。彼が最初に言ったのは、トンネルはガザ住民にとって、イスラエルが北の通気用の「肺」を遮断した今では「右肺」だ(訳注:「北」には「左」という意味もあるため、イスラエル側の左肺=北の通気口=トンネルとエジプト側のトンネルが対を成す含みになっている)、ということだった。また彼はこう付け加えた。「今のガザ地区では現在、エジプトとの通商活動が拡大しており、燃料、防寒衣料、住宅用品、セメントの需要が増している。イスラエルはかつて1リットルの石油を10ポンドで売っていたが、今ではガザでエジプト製石油が1リットル3ポンドを越えることはない」。アブー・イル=アブドは言う。「ガザでは牛肉が1キロ60ポンドで売られている。カイロのいくつかの地区と、そう変わらない価格だ」。
日没の前に、我々はアブー・ムハンマドに同行し、いくつかの倉庫を回った。大型トラックは「ジャファーファ」通りや「イル=ガウラ」通りから来ていて、治安部隊の待ち伏せを警戒して、イル=アリーシュ-ラファフ間の道路を避けていた。中央シナイの工場で作られたセメント、、天然ガス、石油などの商品が、イル=ハンディーヤ村周辺に出現した。通商用トンネルは、さながら地底の巨大倉庫のようで、ナイロン袋で一杯だった。スイスから五千リットルの天然ガスを積んだタンク車が来て、トンネル用のサイズの小型車に詰め替えられ、ガザへポンプで送られる。同じようにして、セメントを積んだトラックも空になった。
アブー・ムハンマドは、ベドウィンがトンネル活動の継続を望んでいることを明かした。彼らは正当であると、彼は次のような言葉で立場を明らかにした。「ガザの大衆は、我々の兄弟に囲まれている。可能な限り、支援をやめるわけにはいかない。同時に、トンネルは我々の経済状況も改善した。というのも、政府はラファフ住民に成長の機会を与えず、ラファフ検問所を閉鎖して我々の通商を断ち、これがラファフ住民をトンネルでの仕事に追い込んだのだ」。彼から政府にメッセージがある。「我々はエジプトの治安を脅かしたりしない。すべての輸出品が、イル=アリーシュの警察署の前に山積みされている。ポテトチップやタイヤや食料品だ。検問所を開いて欲しい」。我々は彼に尋ねた。深さ22メートルに達する壁が建設されたら、トンネルは影響を受けるか? 彼は言った。「パレスチナ人は、金属障壁への対応のエキスパートだ。深さ35メートルに達するトンネルもある」。しかし、商人たちは、壁の完成前に可能な限りの商品を持ち込もうと、時と戦っている。これは、彼の言葉を借りるなら、ガザ住民にとって静脈であり動脈なのだ。
我々は、イル=イヤーイダ族に属するアブー・ムハンマドのエージェントとの接触を試みたが、彼が街道に配置したこの人物は、彼に携帯電話でこう連絡してきた。「今夜は仕事がないよ」。地区内でのエジプト治安要員の動きを見て、トンネルへのセメントの旅を追うのは、順延することにした。
翌日、我々はイル=アリーシュに戻り、商工会議所の登録商人らの誘いを受け、商業地区を訪れた。七月二十三日通りにある、ほとんど空の部品店だ。イサーム・カウイーダルはこう言う。「イル=アリーシュの住民は包囲下に置かれるようになった。平和の架け橋が新たな税関所に成り果てている」。カウイーダルは自動車部品店を営み、三角地帯の警察官たちについて、頑迷という言葉で不平を漏らし、架け橋の上で彼らが直面している窮状を訴えた。彼の言うのは、商品は単に商店に行くだけで、売り上げ票と輸出書類に記録され、税金がこれに基づいて課せられている。
一方、匿名のある食堂店員は、窮状をこう述べる。「我々は肉の問題に直面するようになった。ほとんど見つけることもできない」。原因は、ガザに持ち込まれるから、という口実による緊急の差し押さえだ。「トンネルと密輸に対抗する、という口実で、イル=アリーシュの住民を政府が苦しめて良いはずがない」。
また、イル=アリーシュ商工会議所の秘書官アブドゥッラーヒ・キンディールはこう語る。「北シナイの合法的な商人たちは、苦しんでいる。県内外の治安上の窮状について、ガマール・ムバーラクへの苦情があがっている。特に検問所と「架け橋」で。トラックが拘束され物流会社が閉鎖され、活動が弱体化してしまっている。正しい書類があるのに、立ち往生するようになってしまった。合法商人が「散在」(訳注:賄賂のこと)な方法で商品を扱い、一方で非合法な商人が料金を支払い、彼らの商品が問題なく密輸やトンネルに流れているのは、おかしなことだ」。
また、こう付け加える。「抑圧されている商人には、共和国全体で輸送の自由が与えられるべきだ。彼らを犯罪者のように扱うのはおかしい」。
イル=アリーシュの商人の現状がこの通りである一方、トンネルの商人は--商工会議所秘書官によると--鉄製障壁が彼らに課す変化の前に、治安上の問題を避けつつ、活動を増しており、十歳以下の若年労働者を惹きつけている。彼らは、高額の報酬で、商品をトンネルまで運んでいる。イル=アリーシュから繁栄を引き抜き、潤い活動を増す国境へと移すように。
ガザ・エジプト間の国境封鎖については、エジプトはアラブ世界全体から非難されていますし、大抵のパレスチナ人はエジプトを批判しますし、またエジプト人自身も、ほとんどは快く思っていません。しかし、エジプトはイスラエルと直接国境を接している国であり、また欧米諸国との関係もあり、安易に国境を開いてガザを支援してしまうのも危険です。下手をすればエジプトもガザの巻き添えを食ってしまうわけで、エジプト政府も辛い立場にいるわけです。
おそらく、公式には国境封鎖し、密輸を取り締まる一方、そこそこに抜け穴があって、秘密裏に民間の支援が行われるのを黙認、という状態が政府にとっては都合が良いのですが、それでは満足しない国民も多く、また公になれば、今度はイスラエルとアメリカが黙っていません(そういう意味でも、こういう非政府系新聞によるリポートを、政府は苦々しく眺めていることでしょう)。
結局、イスラエルの問題そのものが解決へと進展しなければ、どうしようもないわけで、エジプト政府の苦しい立場を理解しつつ、根本解決に対する非力を批判したくもなります。具体的には、アメリカに対してもう少し強気に出られる(喧嘩を売ってはダメ)指導者が必要だと、個人的には思うのですけれどね。
ちなみに、冒頭の「時は剣の如し。斬らざれば、トンネルが壁を斬る」というのは、アラブの有名な諺のもじりです。元の諺は、
الوقت كسيف ألم تقطعه قطعك
「時は剣の如し、斬らざれば、斬られる」
括弧付きで使われているفرش المتاعというのは、最初「享楽の布団?」と、サッパリ分からなかったのですが(文脈から賄賂のようなものとは推測できる)、فرشにはspreadのような意味があり、またここでのمتاعは「物品」の意味で、つまり「物による賄賂」のようなコノテーションとなっています。
合法商人が「物による賄賂」を渡し、非合法商人が「料金」を払っている、と書かれているのですが、エジプト人の意見を聞いてみたら、その「料金」も賄賂で、要は賄賂が物品か金銭か、その料や額が大きいか小さいかの違いのようです。
فطع الغيارは「部品」の意。布の端切れではありません。
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