エジプトでの自殺と結婚

 以前にエジプトでは自殺が非常に少ないことを書きましたが、ないというわけではありません。その背景には、エジプト独特の事情もあるようです。
自殺の新聞記事
自殺の新聞記事 posted by (C)ほじょこ

結婚資金準備に失敗し、若者が五階から身を投げる 別の若者は失業から動脈を切る
 生涯二度目の婚約をしていた彫像職人の若者が、ナイル東岸の新ベニー・スウェーフの住居の最上階から身を投げたのは、結婚準備に失敗し、経済的困窮に行き詰まったイード・ル=アドハー前のことだった。
 ベニー・スウェーフ治安部長アフマド・シャウキー氏は、救急局長シャリーフ・リヤード氏より昨日報告を受け、アブーターリブ・ファトハー(二十九歳、彫像職人)が、ベニー・スウェーフ市営共同住宅28棟の五階より身を投げ最期をとげた、と述べた。
 刑事捜査長ザクリーヤ・アブージーナ氏の調査の明らかにするところでは、弟のハサン・ファトハー(二十四歳、労働者)からの聞き取りでは、彼の兄は結婚準備のやり繰りに失敗する以前にその生を終えてしまい、というのも、イード中に結婚手続きを終えるつもりで、二ヶ月前から経済的困窮をしのいでいた、という。
 一方、ババー地区のスドス・ル=アムラーゥ村では昨日、悲劇的な事件が起こった。1998年に文学修士号を取得し、金物修理工を営む若者が、農業研究センターに隣接するスドゥス農場で右手の動脈を切り裂き、見回りが見つけババー救急病院へ運び入れた。
 彼に教育を受け養育された弟のアフマド・フサインは、文学修士号を取り金物修理工を営む彼の兄弟ムハンマド(三十四歳)は、ナイフを取り右手の血管を切ったのは、仕事の機会を得られず、経済的困窮の中で暮らしていたため、と語った。

一日に三件の自殺の新聞記事
一日に三件の自殺の新聞記事 posted by (C)ほじょこ

三つの県で、一日に三人の若者が貧困を理由に自殺
 昨日、一日に貧困を理由とする三件の自殺が三つの県で起こった。ダカフリーヤのダカルニスに属するアブーナーセル村の労働者サミール・アーシム・イル=サイードは、失業し家族の日々の糧を稼げなくなったことを理由に、アパートで紐で首を吊った。
 妻のアムル・マフムード・アフマド(24歳)は、アパートの居間に入ったところ、天井から吊るした紐で、椅子の上で夫が首を吊っているのに驚き、助けようと紐をナイフで切り、下の階に住む夫の家族に助けを求めた、と言う。しかし、彼は既に事切れていた。
 妻は、彼らの事情を詳しく語った。「サミールとは六ヶ月前に結婚したばかりで、アッラーがわたしたちに子供を授けて下さるのを夢見ていました。彼が言うには、彼の姉妹が結婚と家族の住居としてのアパートを建てるのを助けてくれ、彼女たちの結婚や共通の出費を助けなければならなかったのですが、物質的な状況からそれができませんでした。仕事を見つけられず、約一ヶ月前から家族と一緒に食事をしていました。家計を助けることができず、父や姉妹に対し、サミールはとても恥じていました。イードが始まった時はとりわけそうで、生活費を稼げない自分の無力に沢山泣いていました。それで、自分の生に別れを告げたのです」。
 カフル・ッシャイフ県では、四階から身を投げた失業者に、多くの住人たちが驚き、その周りに集まったが、既に息を引き取っていた。犠牲者の家族の語るところでは、彼は妻と五人の子供と共に、一年前から家賃300ポンドのアパートに住んでいた。彼の妻が付け加えるところでは、犠牲者サイード・ユースフ(32歳、失業者)は、日雇い仕事をしていて、月の収入は400ポンド以下で、家賃300ポンドを払うと家計には100ポンドしか残らず、妻がスークに出かけ、彼を助けるために売り買いするより他になかったという。彼女は飛び降りた夫に驚いていた。
 シャルキーヤでは、家族が長男ムハンマド・イブラーヒーム(31歳)の部屋の物音で目を覚ました。父親が息子たちの助けを借りて扉を破ると、長男が床に落ちているのに驚いた。首に洗濯紐が巻かれ、そばには木製の椅子があった。家族は救急車を呼んだが、若者の死亡が確認された。取調べによると、彼は自分で絞首台を作り、精神状態の悪化から生に別れを告げた。一ヶ月以内に結婚新居が購入できなければ婚約を破棄する、と婚約者の家族に告げられ、これを達成できなかったところだった。

 貧困だけでも、日本の貧困とは比べるべくもないですが、特徴的なのは、やはり結婚が絡んでいることです。
 エジプトでの結婚は非常にコストがかかり、新郎には新居購入など大きな経済的負担がかかります。そのため、婚約から十年経っても結婚できなかったり、新郎の父親がローンを組んで家を買うこともあるそうです。
 また、男性に対する家族のプレッシャーは日本の比ではなく、家族を養えないとか、妻を仕事に出さざるを得ないというのは、人によっては相当不名誉に感じるようです(働いている女性も沢山いますが、「女は家に」という傾向は日本よりずっと強い)。
 これら二つの記事は、どちらも一面記事だったので、逆に言えば、自殺自体は日本よりまだまだ「ニュースになる」ということだと思いますが。

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