F女史の誘いを受け、ザマーレクのEl Sawy Culturewheel でイスラーム関係の映画を見る。
ザマーレクはまだ三回しか行ったことがないのですが、本当に異様なまでに綺麗で安全なところです。治安については、エジプトはどこでもかなり良いのですが、女一人で歩いているとバカとかガキとかエロオヤジとかが毎分三人くらいで絡んでくる、という風景がありません。外人慣れ仕切って、誰がどんな格好で歩いていても無関心です。そこそこの距離を歩いたのに、全然ストレスになりませんでした。
会場に到着すると、入り口が頑丈な柵の二重扉で、周りで大量の機動隊が盾を持って構えています。
「イスラーム主義者の台頭を恐れる権力の圧力か!?」と思ったら、アルジェリア大使館が近いための警備でした。学生運動が僅かに生き延びている奇特な大学にいたので、こういう睨めっこ風景は割と懐かしいです。
実際、クラクションを鳴らしまくる車、旗を振って叫ぶ若者が大勢います。エジプト人がこんなに一致団結している姿は、他で見たことがありません(笑)。
会場は、ナイルのほとりの夢のように美しい施設。
イスラーム関係のイベントといっても、窮屈でお説教くさい雰囲気はまったくなく、かなりオシャレです。

El Sawy Culturewheel posted by (C)ほじょこ
映画上映とその後の質疑応答、という構成で、今回は「非イスラーム圏の外国人にイスラームを知ってもらう」ことが目的のイベントだそうで、映画は英語音声・ドイツ語字幕でした(回によって言語は異なり、日本語の時もあった模様)。質疑応答も、全部英語で行われていました。
でも、観客の半分以上はエジプト人(多分ほぼすべてムスリム)で、後は欧米系と、ブラックアフリカ系と思われる数名がいただけで、アジア系はわたし一人でした。
質疑応答に応じた先生が「どんな質問でも大歓迎だよ! アルジェリア人でも暖かく迎える!」とジョークで場を和ませます。飲酒を巡る質問が出た時は、「エジプトとアルジェリアの件も、酒を飲んで喧嘩しなかっただけまだ良かったね」というネタが出ました。ついでにサッカーを禁止する預言が下っていたら、もっと良かったんですけれどね。
内容自体は、別に目新しいものではなく、特に「イスラームは科学的」みたいな正当化を図る部分は、個人的にはかなり嫌いでした。近代科学を持ち出して「クルアーンのここが科学的!」「イスラームは近代科学によっても素晴らしさが証明される!」みたいな持っていきかたは、インチキ臭くなるだけなので、やめて頂きたいです。
映像は綺麗だし、わたし個人は多少なりとも勉強していて極めてイスラーム寄りの人間なのでまだ好意的に見られますが、こういう「イスラームは素晴らしいよ」な映画を見せられたからといって、反イスラーム的な人々が考えを変えるとも思えないし、むしろ「自画自賛しやがって、ケッ!」と反感を煽るのがオチな気がします。というか、そういう人はそもそもこんな映画見ないでしょう。中間くらいで判断保留している人が見ても、これでイスラーム側に転ぶとは思えません。
とはいえ、対象が対象だけに、「良いところもある、悪いところがある」という言説は構築しにくいのも事実です。
信仰について、他の文化圏との軋轢を避けるには、個々人のレベルで触れ合うしかないのではないでしょうか。たとえその信仰プロパーを受け付けないにしても、個人と個人で相対すれば、かならず共有部分、共感できる面というのがあります。「この人はわたしの嫌いなイスラームを信じているけれど、アニメの話が通じる! 全否定しないで、様子を見てみようか」となれば、もう合格点です。
様子を見て様子を見て、五十年くらい時間を稼げは人間死にますから、そんな調子でノラリクラリと暮らせばいいじゃないですか。共存だの寛容だの、言葉面は綺麗ですが、実際のところは「こいつムカつくけど、とりあえず腹減ったから殺すのは明日にしとくか」程度のものでしょう。「明日こそ」とか言ってるうちに、ズルズル百年くらい「平和」が持ちこたえたりするものです。下手に肯定なんか迫らない方がうまくいくこともあります。
ある思想体系に対する価値判断というのは、顔をつき合わせて付き合う関係にあるうちは、全否定に転ぶ確率というのは、結構低いものですよ。というのは、百人嫌いな人間がいても、一人好きな人がいて、その人が当該思想体系をとても大事にしていたら、それだけで全否定にはブレーキがかかるからです。
その子の目を見て、全否定するような口はきけないでしょう。心のそこでは「それさえなければ」と思うかもしれませんが、とりあえず保留にして、積極的否定には走らないのが普通でしょう。それで十分です。
少しだけテロとジハードの話題が出て「次の講演ではジハードをテーマとする。そこでは、そもそものテロの定義についても考えたい」と仰っていました。
これも目新しさはないですが、この辺から話してやらないといけない欧米人も沢山いるだろうし、値打ちはあるのかなぁ、という印象。
講演の中でヒロシマ・ナガサキの名が触れられる。
ヒロシマ・ナガサキがアラブ世界で非常に有名なことについては、以前にも触れたことがありますが、この話題が出る文脈に割とよく居合わせるせいか、日本にいた時より、よく考えるようになりました。
生まれる遥か前の出来事なのに、時々沸々と怒りが沸いてきます。今でも劣化ウラン弾とかイラクで使っているわけですが、あいつらは。
ドイツ人の女性が一人質問していたのですが、彼女の英語がかなりヘタクソで、「海外に出るようなヨーロッパ人でも喋り下手な人がいるんだ」と、変なところで勇気付けられました(笑)。
で、なんと今回も、呼んだF女史とは会えずじまい。他の回に来たのかもしれないし、多忙で体調も崩していたので、来られなかったのかもしれません。
でも、前回のオペラの件といい、呼んでもらわなければ足を踏み入れる機会もない場を知ることができて、すごくラッキーでした。
全然関係ありませんが、帰りに近所で新しいマアラ(ナッツ屋)が開店していました。

マアラの開店 posted by (C)ほじょこ
開店祝いなのですが、耳をつんざくような大音量でクルアーンを流しています。巨大スピーカーから、轟音ぶりを察して頂けるでしょうか。
こんなスピーカーをずっと置いているわけではなく、開店祝いのためにDJ(こういうAV機材一般をアーンミーヤ「DJ」という)を呼んでいるだけですが、それにしても尋常ではない音量です。ハムスターくらいなら殺せそうです。
建物の上には人も住んでいるのですが、流しているのがクルアーンなだけに、誰も文句は言えないでしょう。というか、彼らのノリだと、これくらいは別に迷惑に感じていないと思います。
Discover Islam @El Sawy Culturewheel
エジプト留学日記