アーンミーヤから学び始めるべきか

 従来、アラビア語を勉強したい日本人は、まずフスハーを学び、それから必要に応じて各地の方言(アーンミーヤ)を勉強する、というのが普通だったと思います。アーンミーヤを学ぼうにも、日本ではチャンネルが非常に限られています。わたしも日本ではフスハー以外まったく勉強していませんでした。
 風の噂に日本でエジプト方言のラジオ講座(テレビ?)が始まったと聞いたので、これからは「アーンミーヤから入る」という人も現れるかもしれません。
 実際のアラブ人は、地域を問わず、必ず最初に方言を習得して、その後学校等でフスハーを身に着けるわけですから、方言から入るのは「正しい」側面もあります。また、旅行等でちょっとエジプトに来るため定型的なフレーズを覚えたい、というなら、間違いなくアーンミーヤだけで十分です。
 これに対し「アーンミーヤなんてその土地でしか使えない」みたいな反論をする人がいるかもしれませんが、わたしはこれはナンセンスだと思います。
 中国語ができたら十億人と話せるのでしょうか。一万歩譲ってそうだとしても、十億人も話せる必要はありません。大事なことは、自分の話したい相手と話せる、読みたい本を読める、ということで、話す相手も読みたいものもないのに、ただ漠然と「話者人口が多い」言語を学ぶなんて、時間の無駄以外のなにものでもありません。話したい人が一人でもいるなら、その言語が学ぶべき言語でしょう。
 では「アーンミーヤから始める」の肩を持つのかというと、個人的には、やっぱりフスハーに一票入れたいです。
 自分自身がフスハーから始めた、というのもありますが、いかに外国人から見て「二つの言語」に見えたとしても、アラビア語は一つです。いや、確かに耳で聞くと到底一つには聞こえないのですが、彼らがよく言う「一つの言語の違う局面を使っている」という感覚は、最近になって段々ストンと落ちるようになってきました。
 フスハーの文法は複雑怪奇極まりなく、日本人が学ぶには、主な言語の中では最も難しい部類に入るでしょう。でも、ある程度理解できてくると、その精密機械のような芸術的精妙さに、誰もが感嘆するはずです。個人的には、好き好き大好きでチュッチュしたいです。
 エジプト方言は、古いアラビア語と各種言語の雑種が、日常会話のスピード要件にあわせて高速・簡略化していったような言語で、両方勉強すれば「ここがこうなってこうなった」という流れが実感できます。この「言語の歴史を感じる」体験が素晴らしく楽しいので、やっぱりフスハーは大事にして欲しいなぁ、というのが個人的な想いです。
 フスハーの文法がわかれば、エジプト方言の文法は遥かに簡単です。文法に限って言えば「今までやってきたのは何だったんや」というくらい、簡略化されています。難しいものを気合で学んで、あとで最後のイチゴを食べる方が、喜びも大きいでしょう。F先生に意見を伺った時も「外国人はフスハーから学び始める方が良い」と仰っていました。
 もちろん、発音については難易度は変わらず、聞き取りや会話は、一度死んで生まれ変わる気迫が要ります。でも、当たり前ですが両者には非常に共通要素が多いですから、発音のシフトの原則に馴染んでくれば、何となく「あれのことか」という反射が利くようになります。
 大体、アーンミーヤだけ喋れてフスハーができない、というのは、エジプト人で言えば「文盲」です。ムスリムなら、読み書きができなくてもクルアーンのスーラのいくつかくらいは覚えていますから、「文盲」以下と言って良いでしょう。頑張って外国語を学んで、「文盲以下」にやっと追いつくのではショボすぎます。看板一つ正確に読めないのでは、生活していても不便でしょう(アーンミーヤが喋れない方がより不便ですが・・・)。
 やっぱり、両者は「併せて一つ」なのだと思います。
 でも本当は、こんな偉そうなことが言えるほど上達もしていないので、話半分で流してやってください・・・。
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アレキサンドリアの通り2 posted by (C)ほじょこ

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