マッサージでイフタールのお返しをする

 お友達のお宅でイフタールをご馳走になりました。
可愛いお部屋
可愛いお部屋 posted by (C)ほじょこ
 約束でかなり早めにお邪魔したところ、友人本人は、一通りわたしを紹介してくれた後、仕事で外出。「一緒に食事の支度をしたらいいよ」と言われたものの、彼以外の家族はアーンミーヤ以外ほとんど喋れません。
 家族構成もよく飲み込めないまま、へっぽこアーンミーヤしか喋れないわたしが、ポツンと取り残されてしまいました。
 イフタール直前ですが、もう食事の支度は一通り終わっていたようで、ただひたすら日没が来るのを待っている状態です。友人の紹介が異様に簡素だったので、家族の方もとまどっています。
 仕方がないので、五歳の男の子(友人の姪の息子と後で判明)と遊んで場を取り繕いました。子供なら言葉もへったくれもないし、幸いというか、この子が物怖じしないヤンチャな子で、クルクル回ったり色の名前当てっこをしたりタカイタカイをしたりして、楽しく遊べました。
 子供の台詞すら半分くらいしか聞き取れません。というか、子供の方が聞き取りが難しいかもしれません。この子の方がわたしよりエジプト方言が達者です。
 エジプト人は、軽いyesの意味で返事をしたり相槌を打つ時に「オゥ」とも「アァ」ともつかない非常にオッサンくさい声を男女を問わず用いるのですが、可愛らしい坊やが早くもこのオッサン声を使いこなしていて、ちょっと面白かったです。日本人の感覚で聞くと、ものすごいやる気なさそうに聞こえて、バカにされているのかと思うのですが、別に普通の返事です。
 母語以外の言語で生活していると誰でも感じるでしょうが、聞き取れる時はほとんどパーフェクトに理解できるのに、わからない時は本当に断片しかわからない、ということがよくあります。友人のお姉さんが電話で喋っている内容を傍で聞いていて、九割がた聞き取れていたのに、ちょっと別の話題に移るとまったくついていけなくなります。何なんでしょうね、あれは。
 多分、ダダダーッとまくし立てられても何故か着いていけているというのは、文脈と断片的な単語が大分助けてくれているはずで、逆に部分を取り出して言われると、かえってわからなくなることがあると思います。
 それから、命令文というのはとても大事ですね。「何今頃言ってんだ」と言われるでしょうが、アラビア語は命令文の作り方が英語等に比べるとちょっと面倒で、入門教科書なんかでは少し進んでから登場するのですが、多分、幼児が一番よく聞くのは命令文でしょう。「単語を覚える」といと、アラビア語の場合、完了・未完了・マスダルの三つを覚えるということで、命令文はそこから統語構造に沿って導くことになるのですが、この結果の音を理屈抜きで身体に染み込ませていないと、高速トークに着いていけません。アーンミーヤだと変則的な命令も多いです。加えて、命令文というのは大抵非常に短いので、わかると簡単ですが、わからないと「文脈から推測」ということが難しいです。「え?」と聞き返しても、エジプト人は単により大きな声で同じ台詞を怒鳴るだけなので、外国人の役にはまったく立ちません(笑)。
 友人とそのまた友人が帰還し、一緒にイフタール。
イフタールの食卓
イフタールの食卓 posted by (C)ほじょこ
 トマト煮込みはいつもおいしいです。モロヘイヤも結構好き。
 マフシーはエジプト名物ですが、正直あんまり好きじゃありません。名物に限って相性が悪くて、エジプト人やエジプトファンの方々に申し訳ないです。
 家族の絆がいつも以上に強まるラマダーンなので、イフタールは家族団らんの時かと思うのですが、結構みんな黙々と食べます。断食明けなので、団らんとか何とかより、とりあえず空腹を満たすのに集中しています。
 イフタールそのものは、エジプト訪問前のイメージと違って、結構あっさり終わります。早食いでササッと食べると、早々に片付け始めます。
 「ラマダーンにかえって太るというけど、意外と食べないな」と思ったのですが、この後夜の間あっちこっち訪問しながら食べたり飲んだりして、さらに寝る前にも食べる(または夜明け前に一度起きて食べる)ので、そっちがデブの原因でしょう。
 イフタール後、友人はまた仕事で外出とのことで「ここでのんびりするか、一緒に出るか、どっちにする?」と言われたのですが、他人の家族の中にポツンと取り残されても辛いので、一緒に出かけることにします。
 でも彼は、ものすごい勢いであちこち移動しながら、ひたすら携帯で話したり会う人ごとに濃密にコミュニケーションをとっています。次から次に人を紹介されるので、目が回りそうです。
 加えて、彼に限らずエジプトの男性は全般に歩くのが速いです。大分慣れましたが、彼らのリズムに合わせてセカセカ歩きながら道路もソツなく横断し、かつ会話を継続するのは、やっぱりかなり消耗します。
 エジプト人と行動を共にしていると、人間関係の海の中をモーターボートで突っ切っているようで、ただでさえも外国語の会話で頭を使うのに、すごい精神力を要求されます。
 あるマクハーでなぜか彼がバックギャモンを始めて(すでにフラフラで状況が飲み込めていない)、いい加減疲れていたので「家族の人とお喋りしている」と言って部屋に戻りました。
 「他人の家族の中にポツン」の第二ラウンドが始まりましたが、最初よりみんながわたしに慣れてくれたのか、ご飯を食べてホッコリしたのか、一応会話の形になってきます。
 ちょっと早口になると、本当に簡単な内容でも聞き取りに苦労しますが、せっかくの機会なので気合でお姉さんや姪御さんとトークします。
 お姉さんからは、例によってやたらお金の話ばかりされてちょっと辟易したのですが、ご馳走になった身分が嫌な顔をしてはいけません。
 お姉さんはトドのように大きな女性で、立ったり座ったりするたびに「オォウ」と掛け声が入るのですが、なぜか腕をマッサージして欲しい、と言い出します。わたしがテレビを見ながらストレッチしたりしていたせいでしょうか。
 マッサージは割と得意なので、モミモミして差し上げると、またトドのように大げさにリアクションをくれます。でもこの反応の派手さのお陰で、言葉が今ひとつ通じなくても、どこを揉んで欲しいのか察することができました。
 気に入って貰えたのか、姪御さんの方からもマッサージリクエストが来ます。ご馳走になったので、マッサージくらい何でもないですし、間が持たないのでかえって助かります。
 「海外に行くなら付け焼刃の英会話なんかより折り紙を練習」と思うのですが、わたしはものすごい手先が不器用で、鶴も折れません。外国で誇れるものが何もないです。
 料理も下手くそだし、踊るのは好きですが上手なわけでもなく、そんなしょっちゅう踊る場面もありません。武道はやっていましたが、そんなものもっと使う場面がありません。
 今回のマッサージで「これは使える!」というものに初めて出会った気がします。同性にしか使えませんが(エジプトでは家族以外の異性にマッサージするというのは考えられないはず)、リラックスして仲良くなるのに結構良い方法かもしれません。

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