隔離空間、「アムラー」で迫られる感じ、ムスハフ、エジプト人と寿司

 昨日お会いした日本人の方に「入るだけなら全然問題ない」と笑われてしまったフォーシーズンズのショッピングモールに行ってみる(昨日書きそびれましたが、「ホテル暮らしの面倒臭さ」に共感してもらえたのがすごく嬉しかったです)。
 前の道は何度も通っていたのですが、あまりにきらびやかな雰囲気、厳重な警備に「到底わたしのようなビンボー人の入れるところじゃない」とビビっていました。今日もビビっていたのですが、「アタクシお金持ちの日本人ざますことよ」な余裕オーラを頑張って発射し、何とか門をくぐりました。入り口ではバッグをX線の機械に通してチェックされます。もちろん、横には自動小銃で武装した警備員。
 一歩中に踏み入れると、そこは天国。何ですかここは。
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ショッピングモール posted by (C)ほじょこ
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ブルガリ posted by (C)ほじょこ
 日本のデパートにもまったく引けを取らない、というか、そんなものよりずっとピカピカな世界で、しかも敷居が異様に高いのでガラガラに空いています。
 ここから十分も歩くと、物乞いとストリートチルドレンとやむことないクラクションの世界があるのに、あまりの嘘臭さに卒倒しそうです。
 もちろん見るだけ。本屋だけは少し物色しましたが、ここも高すぎて撤退。ペラペラの地図が30ポンドって一体・・・。
 聞いたところでは、シティスターズも滅茶苦茶高いらしく、お客さんは多いものの、実際に買い物している人は極少数だそうです。話に聞いた相場価格は、どこをどう考えてもあり得ないお値段。そんなところで平気で買い物している日本人は、どうかしているんじゃないかと思います。こっちは35ポンド(約700円)の靴を死ぬほど粘って30ポンドにしたりしているのに・・・。あぁ、世の中所詮ゼニやね、ゼニ。
 ショッピングモールを歩きながら考えましたが、この国ではものの品質や安全、清潔さや静寂も、すべて兵隊(「警備員」や「警察」ですが、「兵隊」のイメージの方が実物に近い)に守られた有料空間の中に隔離されています。公園やナイル沿いの遊歩道も基本的に有料です。そうしなければ、到底快適な環境を維持できないでしょう。
 清潔で秩序ある空間が開放されている日本からすると、隔離し締め出すのはひどいように見えますが、それはただ単に日本という箱庭が、あまりに高度に発達・拡大し、隔離空間の境界感覚がわからなくなってしまっただけです。言わば、日本全体、あるいは東京という都市自体が、兵隊に守られたショッピングモールなのです。
 阿部公房さんは満州で育ち、「街の向こうは砂漠」という環境で暮らした経験から、田舎や自然をやたら賛美する日本的感覚に首をかしげています。街というのは、人間がものすごい努力をして作り上げた隔離空間なのであって、そこがどんな酷い喧騒に溢れていても、向こうの砂漠などよりずっと良い、というより、砂漠なんかじゃ人間は生きられないのです。
 日本は自然環境が概ね穏やかで、街ではないところに行っても、自然の過酷さはたかが知れています(もちろん過酷は過酷でしょうが、砂漠よりはマシでしょう)。だからこそ、地方や田舎でも、結構な人口が暮らしているのでしょう。過疎化が問題視されていますが、世界的に見たら日本の「都市集中率」は異様に低い(田舎がとても住み易い)です。カイロへの一極集中具合を考えたら、比較になりません。
 そういう穏やかな環境と、現在の経済的地位のお陰で、目に見えない素晴らしい隔離空間を築き上げることができたのですが、その完成度があまりに上がってしまって、隔離の素晴らしさにも残酷さにも気付けなくなっているように思います。
 わたしたちは「残酷」なことをしなければ生きていけない。できるだけ「残酷」なことはしたくないけれど、せざるを得ない時は、例えば神の名の元に屠る。
 そういうケジメみたいなものと、できるだけ隣り合って生きていきたい。勇気がないなら、肉を食べるべきじゃない。
 ショッピングモールは何も買わずにサヨウナラし、近所の広場近くの雑居ビル奥で、最近発見した宗教書専門の本屋さんに入る。مصحف(ムスハフ、クルアーンの本)のポケット版を、両親へのプレゼントにもう一つ買おうと思ったのです。
 宗教書専門の小さい本屋さんなので、入ると例によって面倒くさい会話に巻き込まれるのでは、と思ったのですが、ムスハフも5ポンドだったし、店員さんも良い感じでした。
 おつりがなくて、二人いた店員さんの若い方が両替に行っている間、「ムスリマなのか?」「宗教はなんだ?」「日本人は何を信じているんだ?」と、おなじみのトークになったのですが、おじさんは穏やかで押し付けがましい雰囲気ではなく、大変礼儀正しかったです。ああいう静謐さを備えたムスリムは、本当にカッコイイなぁ、と思います。
 今日は散歩途中にあちこちの日陰で休みながらムスハフを読んでいたのですが、全然ムスリマらしくない格好のわたしが読んでいても、とりあえず怒られることはなかったです。小声でブツブツ言っている程度なら、髪を露出した女が読んでいても、とりあえずカイロ市街ではとがめだてられません(サウジなら生きて帰れなさそう)。
 本当はヒジャーブしたいのですが、一度ヒジャーブをしたらずっとし続けるべきらしいので、迷っています。というか、エジプトの(一部)女の子の「伝統とポップの融合」具合がすごく好きで、真似したくて仕方ありません。ビバお洒落ヒジャーブ。
 エジプト女性の相貌・体型は異様に多様性に富んでいますが、時々びっくりするくらい美人でスレンダーな子がいて、見とれてしまいます。ナンパされるのに飽きたので、ナンパしてみたいです。
 フラットの件がまったく思うように進まずストレスだらけのところに、ちょっとしたトラブルがまた発生し、ブチ切れて今日の授業をパスしてしまう。きっかけは小さなことだったし、先生は基本的に好きなので、かなり落ち込む。電話に出る気もしなくて、数時間後にボスのS先生と話して和解。
 フスハーで「○○かどうか」とyes/noクエスチョンを投げる時、文末にأم لا(アムラー、~or notのようなニュアンス)と付ける問い方があります。別に普通の構文なのですが、この言い方で語尾が下がってバシッと聞かれると「やるんかやらんのかどっちや!」と強く迫られている印象があって、好きになれません。
 エジプト人は「どうしたいんだ?」「これがしたい、したくない?」と尋ねることがよくあり、これはこちらの意思を尊重する思いから来ているらしいのですが、「アムラー」が最後に来ると、即答を迫られるようでちょっとしんどいです。
 トロい人間がすごくバカにされる世界なので(町全体が魚河岸状態)、決断の苦手な人間には辛いことも多いです。ただその代わり「したい!」と堂々と答えておきながら、後で前言翻しても、日本ほど「あの時こう言ったじゃないか」とグチグチ迫られることはありません(全然ないわけではない)。
 ただ、今日は、S先生と話していた時に「そうやってこっちの意向を尋ねるけれど、いつも予定通りにいかないじゃないか、責任だけがこっちに帰ってくる感じがするから、何も言いたくない!」と本音を言ってしまいました。この学校はエジプトの学校としてはかなりしっかりしている方だし、今日のトラブルも本当に些細なことで、普段だったらわたしも怒らなかったのですが、悪いことが重なってつい大人げないことをしてしまいました。言いたいことを言って理解して貰えたら、恥ずかしくなりました。
 代わりに一人でベッドに転がって黙々と自習。よく書けるペンで一心に問題を解いたり作文していると、少し心が落ち着いてくる。
 夜のマタァムで、勉強するでもなくぼんやりする。
 ハーニーが一人でテレビを見ていたので、隣に行って一緒に見る。他の店員さんも暇らしく、みんなで黙ってテレビを見る。
 アーンミーヤのドラマ等で、正直あんまり台詞はわからないけれど、結構楽しめる。というか、みんなでテレビ見るのって楽しいです。
 トーク番組で寿司が取り上げられている。「エジプト人は寿司を食べるのか」みたいなネタ。
 これも部分部分しか理解できないものの、かなり集中して聞き取ろうとする。ワサビが辛いとか、ものすごい高いとか、そんなことが話題になっている。
 番組の後、ハーニーに「寿司食べたことある?」と聞くと「ない」と言います。カイロには何件もお寿司屋さんがありますが、彼のような一介のレストラン店員が気軽に食べられるお値段ではないでしょう。「日本人はみんな寿司を食べるのか?」と聞かれたので「寿司は日本でも高いし、特別な時に食べるもの」と答えました。少なくともわたしにとってはそうです。
 「肉や魚というのは、火を通しすぎてもダメだし、焼き加減が足りなくてもダメだ。生で食べるというのは、本当に美味しいのか」「でも色んなものを食べるのは楽しいし、試してみたい」と言います。「寿司というのは、魚の種類なのか? 料理の方法なのか?」と聞かれて「料理の種類」と言うと「じゃあ肉の寿司もあるのか?」と聞かれます。「肉はない。魚だけだけど、色んな種類がある」と説明しておきました。カリフォルニア巻きとかは寿司に数えません(笑)。
 「料理というのは、舌で味わい、鼻で味わい、目で味わい、耳で味わい、」と言ったところで「え、耳?」とツッコんだら、苦笑いしていました。「いや、音楽とかは耳でも味わうじゃないか」。
 ハーニーがコシャリの超有名店アブー・ターレクの場所を説明してくれる。名前はよく聞きますが、わたしはコシャリそのものが別に好きでもないので、一度も行ったことがないです(でも「名門」らしいので、一度は行ってみたいです)。説明した後で、「あ、今はラマダーン中だからやってないや。ごめん」と言います。
 近所のコシャリ屋さんもずっと閉まったままで、コシャリ屋さんはラマダーン中は完全休業が多いようです。
 「ターンメイヤ屋とか屋台はやっているのに、何でコシャリ屋さんは休むの?」と聞くと「屋台とかと違って手間がかかるから」と言っていました。どう見ても、そんなに準備のいる料理とは思えないのですが・・。
 夜のお散歩。なんか一日中散歩ばかりしています。
 エジプトに来たばかりの時、先生に連れていかれて卒倒しそうになった近所の広場の喧騒も、今はすっかり慣れてしまいました。ついでに近隣住民もわたしを見慣れてきて、はやされることも減ってきた気がします。
 前から気になっていたお菓子屋さんでアイスクリームを買って食べる。ちゃんと美味しい。
 前に一度スーパーでアイスクリームを買ってみたら、ものすごいしつこくて「こりゃとても食べられん」と諦めていたのですが、ここのジェラードは普通でした。いつも暇そうなのですが、逆にエジプト人にはあっさりしすぎていて人気がないのかもしれません。
 そう言えば、最近近所の店で、いかにも「国産」風の素朴な容器に入ったヨーグルト(ザバーディ)を見つけて、お店の人がプッシュするので「どうせ死ぬほど甘いんだろうな」と思いながら食べてみたら、砂糖なしで美味しかったです。ヨーグルトには一票入れておきます。
 最近大分涼しくなってきたし、エジプトの服を着てヒジャーブとサングラスで武装すれば、目立たずカイロでもお散歩マスターになれるかもしれません。歩けば歩くほど、粉塵を吸って身体を悪くしそうですが・・。
 あ、えーと、一応諦め気味に仕事も探しています。その前にフラットが見つかることが必須ですが、仕事があれば半年くらいいて、なければあと二ヶ月くらいで帰ろうかなぁ、と思っています(超流動的)。ヘボいパートタイムみたいな仕事あったらやらせてください。そんな甘くないでしょうけれど。
 日本ではソフトウェア開発者でした。使ったことないですが、学歴は結構あります。足のサイズは39です。
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夜の果物屋さん posted by (C)ほじょこ

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